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リレーコラム:2022年4月『ともに奏でる』坂村将介(さかむらまさゆき)

執筆者紹介:坂村将介(さかむらまさゆき)

子どもたちからの愛称は”まさ先生”。専門領域は作曲。

現在は、お茶の水校 集団音楽教室 土曜日クラスの教室長(ソルフェージュ・ヴァイオリン・ピアノ)と、アノネ音楽教室の教材開発を担当。

『ぽるか』『きりえ』など、当教室で扱う世界各地の歌の選曲や、それらの授業やコンサート向けの作編曲を全編手掛ける。


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『ともに奏でる』

 10年近く前のこと。アノネ音楽教室の開校を目指し、まだ見ぬ子どもたちが心から楽しむことができ、彼らの一生の財産になるような曲目や素材を探して、各地を巡っていました。一番遠かったのがヨーロッパの中でも西のはずれにあるアイルランドで、ナショナルカラーの緑が一面に広がる田園風景が、今でも恋しくなります。


 ある小さな町の宿に泊まった際、おかみさんが地球の裏側からの来客に大層喜んでくれて、車で町中を案内してくれました。伝説の音楽家の生家や、秘境のような美しい湖に連れて行ってもらい、私にとっては有名な観光地に行くよりずっと実りある時間でした。


 前述の湖には、その町で一番高いという山(というより大きめの丘と言ったほうがいいでしょうか)がそびえ立っていたのですが、おかみさんが子どもの頃よくそこに登って、自分は世界の頂上にいるんだと思っていたそうです。その湖畔でも、おかみさんの話は続きます。


 さすがにおかみさんの子ども時代は、既にカラーテレビが当たり前で、そのような小さな町でも外の情報や娯楽に触れることができました。しかし、さらに親の世代に遡ると、日常の慰めはほとんど音楽や踊りだけだったといいます。

「国そのものが何もない田舎だったから、その分貴重な楽しみだった音楽に豊かな伝統があるのよ」

この一言に、豊かさとは何なのか考えさせられたものです。確かに、アイルランドでは酒場での音楽セッションがよく行われていて、若い世代までが当たり前のように伝統音楽や舞踏を楽しみ、継承する土壌があります。日本に例えると、都市部でも老若男女が三味線や笛を持って集い、みんなで歌ったり演奏したりして楽しめる居酒屋がたくさんあるようなものです。


 それから数年後、アノネ音楽教室が開校すると、さまざまな国の人に教わった伝承歌の数々を、今度は目の前の子どもたちに伝えていくことになりました。明るい内容の歌詞もあれば、敢えて貧窮や戦争、別離などを歌にして、人々が辛さを乗り越えてきたというものもあります。多様な世界観や歴史文化、人生の喜怒哀楽を、歌のストーリーやそれぞれの言語の響き、音づかいやリズムから体感することができ