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リレーコラム:2022年7,8月『へぇ!』勝野菜生(かつの なお)

執筆者紹介:勝野菜生(かつの なお)

 集団音楽教室の教室長、ピアノ・作曲の個人実技レッスン講師、教材開発、そして特別授業 芸術鑑賞会の企画運営など、幅広い範囲を担当。「なお先生」や「かっちゃん」の名で親しまれています。学生時代よりサポート講師として活躍し、長年子どもたちと触れ合い続けてきました。子どもたちの変化やちょっとした様子を見逃さない観察眼を持ち、初めて会う子どもたちとも、あっという間に信頼関係を築いてしまいます。作曲家としての生来のクリエイティブさが至るところに発揮され、ちょっとしたデザインをおしゃれに仕上げるなど、隠れたスキルで人を驚かせることも。さまざまな顔を持つ先生です!

(紹介文:リレーコラム6月号執筆者 町田光優)


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「へぇ!」

 小学生のころ私が使っていた教本には、音楽に関する豆知識が書かれたコラムが掲載されていました。1番よく覚えているのは、ボサノヴァ(ブラジルのポピュラー音楽)の誕生についてのコラムで、ボサノヴァや、その生みの親の一人であるジョアン・ジルベルトの話が載っていました。ボサノヴァ特有の囁くような歌い方は、彼がお風呂場でギターを弾いているときに発明したものだという内容でした。

「へぇ!そうなのー!お風呂場で!?」

と驚いたことを覚えています。


 練習している曲の背景を調べることにはまった時期もあったのですが、今考えると、前述の教本のコラムがきっかけだったのかもしれません。


 J.S.バッハの『イタリア協奏曲』に取り組み始めたときには「なぜ“イタリア”なのだろう」と不思議に思って、曲の背景を調べました。すると、“どんよりとした気候のドイツに住んでいたバッハが、暖かくて、当時芸術の最先端をいく国であったイタリアに憧れを抱いていたことが影響している”ということがわかりました。

「へぇ!そうなのー!こんなメカニックな曲を作る、いかつい顔のバッハが、『あの国はいいなあ』という憧れから曲を書くの!?」

と親近感を抱きましたし、この話も印象に残り続けています。


 「へぇ!」と思えることで、なんだか世界が広がる感じがしませんか。私には、視野が広がり、世界の見方が変化するように思えてなりません。だからこそ、子どもたちにも「へぇ!」の魔法をかけたくなります。


 かつて私がピアノを教えていたAくんは、譜読みがよくできて、演奏技術もありました。ただ、どこか音楽と親密になり切れていない様子がありました。

「これは『へぇ!』の出番だ!」

と思い、新しい曲に取り組むたび、その曲についての話をすることにしました。


「この曲は、モーツァルトが6歳のときに作ったんだよ」

「へぇ!普通6歳でこんな曲作れないよ!」


「この曲の最初のメロディは、馬のパッサージュという歩きのリズムを真似したんだって」

「へぇ!だから八分音符が使われているのかな?」


 昨年度の特別授業”アノネミュージックフェスティバル”*で『パガニーニの主題による変奏曲』(S.ラフマニノフ作曲)に取り組んだときには、原曲(ピアノとオーケストラが一緒に演奏しています)の動画を一緒に視聴しました。

「元のメロディがあって、それをどんどん変奏していくんだよ。今は2番目。Aが弾いたのは18番目なんだよ」

と伝えると

「へぇ!そんなにあるの!」

と驚いていました。その後も

「速いなあ(ピアノの演奏を見て)」

「これ、間違えられないよね…。間違えたらあとで怒られそう」

「変奏はどれくらいあるんだろう?」

と、Aくんのつぶやきは止まりませんでした。

*一人ひとりの楽器演奏や歌を集め、映像作品を作る特別授業。


 彼に

「Aはこの部分をどうやって弾きたい?つなげることもできるし、少し音を切りながら弾くこともできるよ」

と聞いても、

「うーん、なんでもいい」

と答えるようなことがよくありました。しかし、前述のような話をし始めてからは

「ここはmp(メッツォピアノ)」

「ここは短めのスタッカートにしてみる」

などと、“こう弾く”ということを自分で決められるようになっていきました。


 初対面の人と仲良くなりたいと思うとき、さまざまな質問をしてその人のことを知ろうとする人も多いのではないでしょうか。お互いのことをよく知らないと、仲良くなれるものもなれなくなってしまいますし、主体的に関わろうという気持ちが薄れてしまうこともあります。人間は誰かとの間に共通点があると好意を持ちやすいと言われていますが、子どもたちと音楽の間においても同じようなことが言えるのかもしれません。