代表笹森コラム 10月号

最終更新: 11月18日

 「どんな子も受け容れる」という花まるグループのポリシーから、グループには発達療育支援部門や心理相談部門があり、全社として子どもたちへのサポート体制が用意されています。今まで受け持っていた教室でも、様々な学習/発達障がいを持った子どもたちと出会ってきました。親心として授業中に迷惑をかけてしまう心配もあるかもしれません。しかし、個人の多様性を認めることが標準化してきた現代の世界。次世代のリーダーと言われている、環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんもアスペルガー症候群、強迫性障がいを持っていますが、彼女は自分の性質を「スーパーパワー」と呼んでいます。また注意欠陥・多動性障害(ADHD)も起業家の素質だと言われるように、社会全体がありのままの個性を尊重し才能として見るように変わってきています。

 「多様性を認める」ことや「個性を認める」ことが国際社会の標準/常識になってきている一方で、「自分と他者の幸せのバランスをどうとるのか」という難しい問題を孕んでいます。例えば、アメリカに見る自国の利益ファースト。Make America Great Againを掲げるトランプ大統領のWHOやパリ協定離脱。同じ様にヨーロッパ各国のEU離脱なども、小学校の学級目標的に言えば、「みんなで仲良くしよう」から、「まずは自分の利益/幸せを優先させよう」というところでしょうか。

 前置きが長くなりましたが、そんな時代の中で子どもたちにどう価値観を育んで欲しいかという話です。

 皆さんはジャポニカ学習帳を覚えていますでしょうか。花の写真や、カブト虫や蝶々などの昆虫の写真が大きく表紙に写った学習帳です。しかし2012年から昆虫の写真が消えました。虫が気持ち悪いという一部の意見に対して、出版社が配慮した結果表紙に使われなくなってしまったそうです。さて、これもまた、個人の意見を尊重しているわけですが、この話に反対したのが社会学者の宮台真司さんです。宮台さんは、個人の意見を配慮することは大切だが、尊重し過ぎれば社会が息苦しくなっていく、という話をされていました。例えば、公園では走れば怪我に繋がるから走らせない、ボールは危険だから使用禁止、大きな声も近所迷惑で出せない。大人はゲームはするなというが、公園でできるものはゲームしかない。ゲームの良し悪しは本稿の主旨ではないので論じませんが、ある種の意見を際限なく採択し続ける限り、社会が窮屈になっていくという旨でした。それもうなずける話であると同時に、次の話に多様性を認めることのヒントがあると思いました。種子植物である花は受粉しないと花が咲きませんし、受粉ができるのは昆虫のおかげであるわけです。それなのに「花は見たいが虫は見たくない」という都合の良い意見を聞いていけば、最後は花も見れないような世界になる。いいとこ取りばかりできないのが自然の摂理だ、という話でした。この話をラジオで聞いたのがもう数年前なので正確な言葉ではないかもしれませんが、多くの示唆に富んでいるように思いました。見たくないものを除いて、自分が見たいものだけを見ることは、個人の価値観を優先させているようで、結果として自分たちが息苦しい社会や世界を形成していってしまう側面もあるわけです。これもまた一人ひとりの価値観と他者や社会にとっての幸福のバランスをとる難しさだと思います。


 さて、話は変わりますがその昔、音楽教室を立ち上げた頃、アルバイトで働きたいという学生が来ました。面接の一環で授業見学をしてもらいましたが、当時の私の教室には多動の子が数人いて賑やかでした。授業が終わり、「どうでしたか?」と聞くと、「私、騒がしい子を見て、無理だと思いました」と返ってきました。「何でも言うことを聞いてくれる子どもばかりじゃないよ」と言いたい気持ちと、そんな子達がかわいいんだよ、ぐらいの返答しか思い浮かばず、そのまま面接が終わったことを今でもよく覚えています。


 多様性(ダイバーシティ)という言葉が一般的になり、「難民の受け入れ問題」や「テロによる宗教観での争い」も、今や社会の身近なテーマです。そしてそれを解決していくことは、私たちやこれからの世代の子どもたちになるわけですが、大人になって突然その課題解決の力が身に付くはずがありません。その入り口となる最初の経験はやはりミニ社会の幼稚園や小学校でしょう。例えばとなりに座った子を笑わせたり、次も〇〇くんと一緒の席がいい!と魅了することではないでしょうか。同じテーブルに学習/発達障がいがある子がいれば、その子のことを思いやり理解し、助けて認めていくことが、世界を平和にする一歩だと思います。嫌な人とは関わらなくて良いという意見もありますし、隣の席の子と距離をとらせることは簡単ですが、赤の他人を幸せにする経験は積めません。他人を幸せにする経験が乏しければ、これから出会うかもしれない大切な人も、ましてや国が違う人を、宗教が違う人をどうして幸せにできるでしょうか。多様な価値観を認めることとは、目の前の相手を幸せにすることであり、自分の主義主張や居心地の良さばかりを担保してもらうものではない、という考え方は、まさに今子どもたちに伝えたいことです。面接に来た彼女に全く非はありませんでしたし、当時の私にただ教育の魅力を語る力が足りなかっただけですが、今であれば個性の違う子どもたちが居ることが、どれだけ尊く価値があるのかを伝えられるかもしれません。そしてこれからの子どもたちには花も虫も愛せる子に育って欲しいですし、その先には自然も社会も国も繋がりの中で支え合っていることを知り、大切にしながら、これからの未来を担ってもらいたいと思っています。

 

アノネ音楽教室代表 笹森壮大

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