リレーコラム:2026年6月 『「できない」の、その先へ』野原 志穂里(のはら しほり)
- 広報 株式会社グランドメソッド

- 6月29日
- 読了時間: 5分
執筆者紹介:野原 志穂里(のはら しほり)
アノネエレメンタリースクール(アノメン)運営スタッフのノンタン。花まる学習会、スクール FC、西郡学習道場、シグマTECHなどで、さまざまな子どもたちの成長に携わる。学生時代から海外での生活を経験し、その後も国内外の教育現場で学びを重ねる。多様な価値観との出会いを通して、「人は環境だけでなく、人との関わりの中で成長する」という考えを大切にしている。2026年1月よりアノメンの運営に参画。子どもたちの小さな変化や成長に目を向けながら、子ども・保護者・スタッフが共に成長できる関係づくりに取り組んでいる。
---------------------
『「できない」の、その先へ』
先日、音楽の授業が終わったあと、一人の子どもに声をかけました。
「最近、ヴァイオリンどう?」
すると、その子は少し照れたように笑いながら、
「最初はできないと思って不安だった。でも、できるようになって、今は楽しい。」
と話してくれました。
その一言が、今でも心に残っています。
アノメンが開校して1年2か月が経ちました。
この1年余りの間に、子どもたちはたくさんの挑戦を重ねてきました。以前は自分から仲間に声をかけることが難しかった子が話しかけられるようになったり、「やりたくない」と言っていた活動に参加してみたり、「できない」と言っていたことに挑戦し、「できた」と嬉しそうな表情を見せたり。現場では、そんな小さな変化をたくさん目にします。
最近、保護者の方から、
「うちの子、変わりましたね。」
「前よりも自分から動くようになりました。」
という言葉をいただくことがあります。
一方で、
「家ではあまり変わっていないように見えるんです。」
というお話を伺うこともあります。
毎日一緒にいると、子どもの成長は見えにくいものです。
けれど現場では、自分から仲間に声をかけたり、自分の気持ちを伝えたり、苦手なことに挑戦したりする姿を日々目にします。一つひとつは小さな変化です。しかし、そうした小さな一歩の積み重ねこそが、本当の成長なのだと感じています。
そして、その姿を見るたびに思い出すことがあります。
私が以前、インドで生活していた頃のことです。
当時、私は現地の6歳から14歳くらいの子どもたちを担当していました。
その中に、約束の時間に遅れて来る男の子がいました。
日本で育った私にとって、時間は「守るもの」でした。だから最初は、「どうして時間どおりに来ないのだろう」と戸惑いました。
けれど、保護者の方と話しているうちに、少しずつ気づいたことがありました。
そこでは、時間に対する感覚や子どもへの関わり方が、日本とは大きく違っていたのです。
私が当たり前だと思っていた「時間を守ること」は、どこでも同じように共有されている常識ではありませんでした。
そのとき初めて、「正しさ」は一つではなく、育つ環境によって形づくられていくものなのだと実感しました。
自分が正しいと思っていたことも、実は環境の中で育まれた一つの価値観に過ぎないのかもしれない。
その経験を通して、人は環境から大きな影響を受けながらも、その環境の中で少しずつ成長していく存在なのだと感じました。
当時の私は何度も、
「この環境は自分には合わないのではないか。」
と思いました。
文化も価値観も異なる環境の中で、何もできない自分を情けなく感じることもありました。
それでも続けることができたのは、環境が変わったからではありません。
私の話にじっくり耳を傾け、どんな選択をしても頭ごなしに否定することなく、
「まずはやってみたらいいよ。」
と、いつも背中を押してくれる人がいました。
その人は答えを与えるのではなく、困ったときには一緒に考え、迷ったときには私の気持ちを受け止めながら、「自分で決めていいんだ」と思えるように支えてくれました。
だからこそ、
「もう少し頑張ってみよう。」
「もう少し挑戦してみよう。」
と、一歩踏み出すことができたのです。
この経験は、今アノメンで子どもたちと関わる中でも、何度も思い出します。
アノメンでは、校長の笹森が保護者面談でよくお伝えしている考え方があります。
「子どもに合う場所を探し続けることを目的にするのではなく、どんな環境でも自分なりに価値を見出し、挑戦できる力を育てる。」
もちろん、安心できる環境はとても大切です。
安心できる場所に出会ったことで笑顔を取り戻す子どもたちもいます。アノメンも、そんな場所でありたいと思っています。
しかし、私たちが本当に大切にしたいのは、その先です。
安心という土台があるから挑戦できる。
失敗しても大丈夫だと思えるから、一歩踏み出せる。
私たちは、そんな環境をつくりたいと考えています。
アノメンでは音楽の授業で、ヴァイオリンやチェロに取り組む機会があります。初めて楽器に触れる子どもも少なくありません。最初は不安そうだった子が、少しずつ音を出せるようになり、「できた」と嬉しそうな表情を見せることがあります。
もちろん、楽器に挑戦すること自体は、一般的には特別な経験かもしれません。
けれど子どもたちにとって大切なのは、楽器そのものではなく、「やってみよう」と一歩踏み出す経験です。
私は、その一歩一歩の積み重ねが、あの日子どもが話してくれた、
「最初はできないと思って不安だった。でも、できるようになって、今は楽しい。」
という言葉につながっているのだと感じています。
日々子どもたちの小さな変化に目を向け、できるようになったこと、挑戦したこと、勇気を出したこと。そうした成長をスタッフ同士で共有しながら、一人ひとりの歩みを支えています。
私たちは、「できない」で終わる子どもはいないと信じています。
その子なりのペースで挑戦を重ね、安心できる環境の中で一歩を踏み出した先には、「できた」という喜びがあり、「今は楽しい」という笑顔があります。
これからもアノメンは、子どもたち一人ひとりの「できない」の、その先を、保護者の皆さまと一緒に見守り続けていきたいと思います。
アノネエレメンタリースクール 野原 志穂里(のはら しほり)- “ノンタン”
ーーーーーーーーー
コラムに対するご感想などがございましたら、
info@anone-music.comまで、ぜひお寄せください♪


コメント