リレーコラム:2026年7月 『我亦紅(われもこう)』早川 結奈(はやかわ ゆいな)
- 広報 株式会社グランドメソッド

- 7月29日
- 読了時間: 4分
執筆者紹介:早川 結奈(はやかわ ゆいな)
子どもの頃音楽に感動した体験が忘れられず、5歳の頃から音楽家を志す。また「音楽教育は人の心を育てる」ということを幼少期に目の当たりにし、音楽教育者も同時に志す。現在、アノネ音楽教室にてピアノ個人レッスン講師を務めるほか、ユースセッションコースのアンサンブル授業や花まる学習会の講師など、さまざまな場面で子どもたちと関わりながら、ピアニストとして各地で演奏活動を行っている。
愛称は自身の名前と誕生月に由来し、人と人との輪を大切にしたいという想いを込めて「エイト」。日々子どもたちの成長する姿に感動しながら邁進している。趣味は各地のマンホールを見たり、駅スタンプを集めること。
---------------------
『我亦紅(われもこう)』
私が4歳だった頃のできごとです。祖父の家へ遊びに行ったある日、私はひとり両親のもとを離れ、部屋へ連れて行かれました。いつも優しく遊んでくれるおじいちゃんの背中が、その時だけどこか違って見えました。どこへ連れて行かれるのだろうとワクワクしながらも、祖父のキリッとした緊張感が伝わってきて、私も何か失礼のないよう少しかしこまった気もちで後をついていきました。
部屋に入ると、そこにはたくさんの楽譜や本が本棚に詰め込まれ、手書きの楽譜もある特別な空間が広がっていました。入った瞬間、私は魔法の部屋に来たような感覚になり、その空気に圧倒されて胸がドキドキと高鳴りました。
「おじいちゃん、どこに行くの?」
部屋の奥へ向かう祖父を呼ぶと、すぐに片手に大きなものを持って戻ってきました。それは、クラシックギターでした。椅子に腰かけ足台に足をかける、いつもの優しい笑顔ではない祖父。その真剣な面持ちを見るのは、初めてでした。
しばらく沈黙が続きました。ふっと手が上がり、弦が弾かれた瞬間、抱かれた楽器から、じわーっと心が熱くなる音が聴こえてきました。その音は私の心をつかんで離さず、音楽とともにどんどん心を動かしていきました。涙があふれて止まりませんでした。泣くのを止めたいのに、曲が進むごとにその表情に合わせて胸がきゅーっとなって、どうしても止められません。まるで音楽の魔法にかけられたようでした。
音楽には、こんなにも人を感動させる力がある。その力の大きさを感じた、大切な瞬間でした。そして、音楽の感動には人の心を支える力があると知りました。「音楽家」は、そんな音楽で人の役に立てる仕事なのだと知った私は、音楽家になりたいと心に決めました。
祖父は私が子どもだからと手を抜くことなく、本気の想いを込めた演奏を届けてくれました。今思うと、そこには生きている間に私に届けたい、大切な思いが込められていたような気がします。
今でもあの日の体験が、私の大切な原点であり、前へ進む力になっています。同時に、うまくいかないときも温かく応援し続けてくれた家族がいたからこそ、私は諦めることなく歩んでこられました。
小さい頃から音楽が好きだった祖父は、帰省中のお兄さんが奏でたギターの音色に感動し、のめり込むようにギターを始めたそうです。将来は音楽家を志しましたが、親族会議でみんなから反対されました。それでも夢を諦めず、自分の道を歩み続けました。第二次世界大戦で従軍している間も、生きて帰って音楽を続けることを願い続け、幸運にもその望みは叶いました。
そんな祖父が大事にしていたギターを、母は、音楽家になることには反対しながらも、息子が帰ってくることを信じ続け、焼失を免れるようお寺に預けていました。また、作曲途中の楽譜は仏壇にしまわれていました。母は、心の中ではずっと応援していたのだと思います。
その後も音楽の道を探求し続け、ギタリスト、作曲家となりました。人を大切にし、愛に生きた、情熱あふれる温かい人でした。
そんな祖父が作詞作曲した歌に、「我亦紅(われもこう)」という曲があります。この歌詞は、今でも私の心の支えになっています。
我亦紅(われもこう)
秋の野にゆれる
汝(な)も花が
誰(た)がために咲く
ただ我亦紅
秋の野に咲くわれもこうは、一見花のようには見えません。それでは、誰のために咲いているのだろう? 花には見えないかもしれないけれど、それでも花である。つまり、自分の道は他人からどう見られようとも、自分の信じた道を自分らしく進もう、という意味だと私は受け止めています。
音楽の感動に魅了されたあの時から、自分の道は一度も揺らいだことはありません。誰にとっても、感動や憧れは人生の大きな原点になるものだと思います。この原点を忘れずに、音楽の感動を追い求め、これからもこの道を進み続けたいと思います。
アノネ音楽教室 早川 結奈(はやかわ ゆいな) - “エイト”
ーーーーーーーーー
コラムに対するご感想などがございましたら、
info@anone-music.comまで、ぜひお寄せください♪

コメント