リレーコラム:2025年12月 『音楽を全身で感じる』荷田 直美(はすだ なおみ)
- 広報 株式会社グランドメソッド

- 2025年12月28日
- 読了時間: 5分
執筆者紹介:荷田 直美(はすだ なおみ)
子どもたちからの愛称は”なおみ先生”。専門分野である声楽の個人実技レッスン講師のほか、お茶の水校水曜日の集団音楽教室『年中長総合コース』『総合(小学生ベーシック)コース』および同オンライン校教室長を担当。ソロでの歌唱はもちろん、合唱の経験も豊富で、対面の集団音楽教室では子どもたちの歌声をサポートすることも! 「なおみ先生の声を聞けば、どこにいるかすぐに分かるよ!」といわれるほど、いつも明るい声で親しまれています。
---------------------
『音楽を全身で感じる』
今年4月から、私はアノネ音楽教室お茶の水校(水曜日)の集団音楽教室・教室長を務めてきました。「楽しく」、「分かりやすく」を合言葉に授業に取り組んできた2025年も、いよいよ終わりにさしかかろうとしています。
さて、「年末」という言葉を耳にして、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。大掃除、年越しそば、除夜の鐘......。パッと思いつくかぎりでも、さまざまな風物詩がありますね。音楽の催しでは、各地で開催されるクリスマスコンサートをはじめ、紅白歌合戦や東急ジルベスターコンサートといったビッグイベントも、この時期ならではの楽しみです。
そんな風物詩のひとつに、私の人生と切っても切り離せない名曲があります。それは、ベートーヴェンの交響曲第9番、通称『第九』です。アノネ音楽教室では「喜びの歌」と呼んで親しんでいる子どもたちも多いでしょう。多くの音楽家は年の瀬に『第九』を聴いたり歌ったりすることで「ああ、今年ももうすぐ終わるなあ」と実感するものです。つい先日、プロのオーケストラの定期演奏会に合唱団の一員として出演した私もまた、『第九』の合唱を通して、一年の暮れをしみじみと噛みしめることができました。
『第九』を作曲したベートーヴェンは、20代から難聴に悩まされ、40代でほぼ完全に聴力を失いながら、現在まで演奏され続ける数々の名作を残しました。難聴が進行してからは音を聴くのではなく、響きの振動を身体で感じ取ることで作曲していた、ともいわれています。そんなベートーヴェンの苦悩と情熱に強く共感する出来事がありました。
私の参加するコンサートで『第九』の練習が大詰めを迎えたある日、指揮者が合唱の練習の後にベートーヴェンの自筆譜を見せてくれました。シラーによって書かれた『第九』の元の詩『歓喜に寄す』は、完成された世界を賛美するというよりも、分断や苦悩の現実を背景に、それでも人が歓喜と友愛を目指そうとする理想を歌っています。私たちが普段手に取ることのできる楽譜は、印刷されきれいな状態となっています。しかし、幾度とない書き直しによって汚れた楽譜には、荒々しい筆跡で思いついた旋律や和声を必死に書き留めた痕跡が生々しく残されています。指揮者は自筆譜を見せることで、私たちにただきれいに演奏するだけ、盛大に盛り上げるだけではなく、一人ひとりが不完全な人間であるということ、それでも同じ言葉を同じ方向を向いて歌うことによって、渾然一体となった音楽を表して欲しかったのだろうと感じています。私は楽譜を目の当たりにして、悩み苦しみながら真摯に音楽と向きあい続けたベートーヴェンの苦労と熱意が垣間見え、心を打たれました。
アノネ音楽教室のクリスマスコンサートでは、オーケストラの音の振動によって迫力のある響きが体感できます。普段ピアノ伴奏で歌っている子どもたちも、本番でオーケストラの迫力や身体に伝わる振動を感じ取って、自然と伸びやかな歌声を披露するようになります。
ですが、楽器無しのアカペラ編成でも、声だけの共鳴によって全身で音楽を感じられるポイントはいくつもあります。
今年のクリスマスコンサートでは、ワールドチーム(小学生の高学年をはじめ、中学生や高校生以上(ユース)も含めたチーム)の子どもたちが武満徹作曲の混成四部合唱曲『島へ』をアカペラで演奏しました。「アカペラ」はもともとイタリア語で、「教会で演奏する無伴奏の合唱音楽」を指します。現在では声だけで演奏する音楽を指す言葉として広く知られています。
そんなアカペラの演奏では、前後左右にいる仲間の息遣いや音程のわずかな違いを、より敏感に感じ取ることが求められます。また、アカペラでは「倍音」の重なりによる豊かな響きが感じられることも大きな魅力の一つです。人の声や楽器の音は、実は「ひとつの音」だけでできているわけではありません。たとえばオーケストラでチューニングをするときに鳴らす「ラ」の音も、その音の中には、少し高い「ラ」や、さらにその上の音なども含まれています。つまり、ひとつの音の中に、いくつもの音が重なって存在しています。これを「倍音」と呼びます。合唱やアカペラで音程や発音がそろってくると、子どもたち一人ひとりの声の中に含まれているこうした音(倍音)が、自然と重なり合い、助け合うように響きます。その結果、無理に大きな声を出していなくても、音が広がり、立体的で豊かな響きに聴こえるようになります。編成の大きさにかかわらず、音や音楽を体で感じる経験ができることが、クリスマスコンサートのさらなる醍醐味になったのではないでしょうか。
今回のクリスマスコンサートが、音楽を全身で感じ、表現する楽しさを知るきっかけとなり、子どもたち一人ひとりにとって新たな音楽の魅力を発見する機会となっていれば、これほど嬉しいことはありません。アノネ音楽教室に通ってくださっているすべての子どもたちにとって、このコンサートが心に残る特別な思い出となったことを願っています。
本年も一年間、大変お世話になりました。来年もどうぞよろしくお願い申し上げます。皆さまにとって2026年が、健康で幸せに満ちた一年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。どうぞ良いお年をお迎えください。
アノネ音楽教室 荷田 直美(はすだ なおみ)- ”なおみ先生”
ーーーーーーーーー
コラムに対するご感想などがございましたら、
info@anone-music.comまで、ぜひお寄せください♪


コメント