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リレーコラム:2025年6月 『ジャガイモ事件』山下 優 (やました ゆう)

執筆者紹介:山下 優(やました ゆう)

 これまでに、ピアノ・作曲の個人実技レッスン講師、集団音楽教室『総合(小学生ベーシック)コース』『年中長総合コース』の講師、さらに花まる学習会でも教室長として集団授業を担当してきました。レッスンの現場だけでなく、アノネ音楽教室の開校当初より、教材開発からイベント運営まで、裏方の仕事にも幅広く携わってきました。みんなからは「ゆう先生」の名で親しまれています。第一子を出産し、現在はレッスンの現場はお休みしつつ、アノネ音楽教室の運営を全般的に担当しています。「子どもたちが楽しく音楽に取り組むにはどうしたら良い?」と常に考えている、愉快で元気な先生です!


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『ジャガイモ事件』


 早いもので息子は1歳9か月になりました。ある日の我が家の様子をお伝えします。


 保育園からの帰り道。

「いや〜〜〜〜〜わぁぁぁぁぁ」と泣き叫ぶ息子を自転車の後ろに乗せ、私は街中を駆け抜けていきます。周囲からの視線を集めたのはもちろんですが、お子さま連れの保護者の方やご年配の女性からの眼差しはどこか暖かく、子育てに奮闘する私へのエールのようにも感じられました。

 駐輪場について、一旦泣き止んだかと思いきや、今度は降りたくないと「んんん、んんん」と首を横に振ります。どうやら自転車の座席についているベルトに興味が向いたようで、それをはめようと一生懸命トライしていました。私は「夜はなるべく早く息子を寝かせたい」という思いから、夕方はいつも時間と戦っています。息子が自転車から降りようとしない状況に焦りを感じましたが、「おうちで、おいも食べない?」という誘いが響いて、なんとか機嫌を損ねずに玄関まで辿り着きました。


 お風呂にお湯を張っている間に、ジャガイモの煮物を食べさせました。お腹が空いて機嫌が悪くならないように、と。ですがこれが最大の誤算でした。息子はご機嫌にジャガイモを食べだしたものの、1〜2個では終わらず、何個も何個も食べたいと主張します。しかし、お風呂の前に食べすぎると気持ちが悪くなるからと、「あとで食べようね」と途中でお預けにしました。すると息子は納得がいかずに大爆発。悲痛な声で泣き叫びます。今思えば当然の反応でした。お腹が空いているなかで少しだけ食べ物をもらい、それもまだ目の前にあるのに取り上げられてしまったのですから。息子は「あとで」の言葉の意味もまだ分かりません。「ごめん」と謝っても時すでに遅し、その後も激しく泣き続けました。どんなに声をかけても泣き止まず、私も仕事後で疲れ果てていたので、ただ黙って隣に座り込むことしかできませんでした。苛立たしいような、惨めなような、虚しいような、なんとも苦い気持ちが湧き上がり、心の中でぐるぐると渦巻いていました。

 15分か20分経った頃でしょうか、どうせ聞きやしないだろうと思いながら「抱っこする?」と声をかけました。すると、息子は泣きながらも「あっこ(抱っこ)、す…る」と言って、私の方に寄ってきました。そして、抱っこされた後に泣きじゃくりながら「ぎゅ、、ぎゅー、たい」と言いました。息子の「たい」は「〜したい」の意味なので、「ぎゅーっとしたい、ぎゅーっとしてほしい」と伝えたかったようです。それを聞いて、先ほどまでのネガティブな気持ちはすっと消えていきました。息子が怒りや抗議のためだけに泣いているのではないこと、どうしていいか分からず混乱して泣いている息子にとって一番安心できるのがやっぱり「母親の抱っこ」なのだと、改めて気づくことができたからです。

 抱っこして、ぎゅっとハグをした後、息子は徐々に落ち着きを取り戻し、無事にお風呂に入ることができました。その後、夕飯のときも何かとイヤイヤはしていましたが癇癪は起こらず、いつもより遅い時間にはなりましたが無事に就寝。その寝顔を眺めてホッとしたのも束の間、「この癇癪が毎日続いて、自分が息子のことを可愛いと思えなくなったらどうしよう」という不安と恐怖で、ちょっぴり涙してしまいました。

 

 実は、この数日前に保育園の先生から、「息子さんがイヤイヤ期に入りましたね」とお話をいただいたところで、「おお、ついに来たか」と思った矢先の出来事でした。次の日、毎日提出する保育園の連絡帳で昨夜の出来事を報告したところ、担任の先生が直接声をかけてくださり、先生は私の話を丁寧に聞きながら労ってくださいました。その優しさに、家でまたこっそり涙しました。

 また別の日に、アノネの同僚で2児の母である照田にも話を聞いてもらいました。照田は0歳〜年少さん対象のリトミックのレッスンを担当していて、幼児に関する知見を借りることができました。そして、「イヤイヤ期はまだ続くけど、大丈夫。我が子は可愛いと思えるよ」と励ましてもらい、救われる思いでホッと一安心しました。

 

 このジャガイモ事件を振り返ると、私に欠けていたのは「息子を一人の人として見る」という当たり前の態度でした。息子は私とは別の人間であり、意思があり、すべて思い通りにさせられないのは当然のことです。息子が自転車に乗りたくなくて泣いたのはもっと保育園で遊びたかったから、自転車から降りたくなくなったのはベルトが気になったから、家に帰ってから泣いたのはお腹が空いてジャガイモをもっと食べたかったからでした。もちろん、イヤイヤ期特有の理由なき「イヤ!」もあります。でも私は、息子のためと思いつつ、いつの間にか“自分のスケジュール通りに進めたい”という気持ちに縛られていたのだと気づきました。


 アノネ音楽教室の講師や花まる学習会で教室長を担当していたとき「生徒を一人の人として尊重し、気持ちに寄り添いながら、自立に向けて背中を押す」ということを常に意識して関わってきました。ですが、いざ自分の息子のこととなると、冷静さを失ってしまいます。息子のすべての希望を叶える必要はないけれど、気持ちを無視してよいわけではない。気持ちを受け止めたうえで、ときに優しく、ときに毅然と、自立を後押ししていけるように愛情深く接していこうと改めて思いました。とはいえ、言うは易し、行うは難し。イヤイヤ期の対応はなかなかの修行ですが、周りの人を頼りながら母親として精進していくつもりです。保護者の皆さまのなかで、「うちはこうしてました!」という知恵があれば、ぜひ教えていただきたいです!

 

 最後に、一つお伝えしたいことがあります。ジャガイモ事件があった後、息子の様子を保育園の先生に報告するか、正直少し悩みました。担任の先生は、たくさんの園児を担当してお忙しいだろうし、体調不良でもないのに心配をかけるのはどうなのかと。お時間をいただいてしまったら申し訳ないな…なんて思っていました。ですが、私自身が講師をしていたときは、こうしたご家庭での様子を教えていただけることが、とてもありがたかったことを思い出しました。いただいた情報をもとに、レッスン内容や声かけを検討したり変えたりすることが多くあったからです。もし、「音楽教室なのに普段の家での様子を伝えたり、相談したりして良いのかしら」と迷われていたら、遠慮なく担当講師、教室長へお伝えください。私たちは、音楽を通してお子さまの人生を応援する者でありたいと思っています。これからも保護者の皆さまと二人三脚でお子さまを支える存在でいられるように、アノネ音楽教室のスタッフ一同、引き続き努めてまいります。


アノネ音楽教室 山下 優(やました ゆう) - “ゆう先生“

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コラムに対するご感想などがございましたら、

info@anone-music.comまで、ぜひお寄せください♪


 
 
 

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