執筆者紹介:照田 知慧(てるた ちえ)
集団音楽教室『リトミックコース』教室長・『音楽療法ムジカピアコース』教室長・声楽の個人実技レッスン講師。これまでには、集団音楽教室『小学生ベーシックコース』『年中長コース』の教室長、さらに花まる学習会でも教室長として集団授業を担当してきました。みんなからは「ちえ先生」の名で親しまれています。現在は、0歳からのコンサートやイベントも多数企画・運営。学生時代から子育てに奮闘中の今にいたるまで、ミュージカルや子ども向けイベントなど様々な舞台に立ち続けてきました。二児の母とは思えない明るくパワフルな先生です!
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『幼児教育における音楽の可能性』
わが家には、もうすぐ3歳になる娘と9ヶ月の息子がいます。子育ては本当に予期せぬ出来事の連続で、日々様々な能力を試されているな、と感じる毎日です。
3歳の娘は、やっと歌に音程がつけられるようになり、歌詞もしっかり聞き取れるようになってきました。保育園からの帰り道、自転車の後部席はいつもカラオケ状態です。運転をしている私が恥ずかしくなるくらいの大声で歌を歌いながら帰っています。そして、お風呂上がりには、プレイマットをステージに見立ててお歌の発表会。「きらきら星」に振りをつけて、全力で歌って踊ります。父、母、そしてまだ赤ちゃんの弟も観客として必ず参加するのが娘のルールです。「違う曲歌ってみない?」と私が聞いてみても「きらきら星がいいの!」と。「次はママの番ね」「おじぎもしてね、こうだよ」と指導を受けながら、何度も何度もきらきら星を歌わされる毎日です。ずっと同じでは私自身が飽きてきてしまうので、リズムをアレンジしてみたり、振り付けを変えてみたり、大人も頭をフル回転させながら参加しています。
さて、リトミックコースでは、11月より2・3歳合同クラスがスタートしました。もうすぐ2歳になるお子さまがお返事をしたり、一生懸命楽器を鳴らす姿を見ていると、可愛らしくてこちらが元気をもらえます。リトミックの体験にお越しくださる際のきっかけには「お家で楽しそうに歌を歌っていて、音楽が好きなのかな、と思いました」という理由が9割ほど。実際に早い子では、生後7、8ヶ月頃から音楽に合わせて身体を揺らしはじめ、1歳半以降は発語の発達と共に歌える子が増えていきます。特に1歳〜5歳頃までは、保育園や幼稚園、そしてリトミックに限らず様々な習いごとの中で、歌や音楽と一緒に発達を促す遊びや活動が展開されます。活動の始めや終わりを意識させるために、毎回決まったお歌を歌ったり、季節を感じるために童謡を用いたり、様々な場面で音楽が大変活躍します。それらの授業の現場を見ればわかるように、幼児教育と音楽はとても相性が良いといえます。室内遊びが好きな子も、外遊びが好きな子も、共通して”音”や”音楽”に大変興味を示します。例えば、乗り物好きな子であれば、ごみ収集車や救急車の音が聞こえると「ごみ収集車!」「救急車!」と窓際に飛んで行って車を探します。この様子は、リトミックでいう一種の”即時反応”(音に即時的に反応して身体を動かすこと)ともいえます。また、プリンセスに興味を持ちはじめる女の子たちには「舞踏会でダンスを踊りましょう」と声をかけるだけで、日本人に馴染みの薄い”3拍子”のリズムステップもスムーズにできたりするのです。
私は8年ほど音楽療法の現場でも指導させていただいておりますが、幼児教育と同じように「音楽の力」を実感する瞬間がたくさんあります。肢体が不自由で表情も暗くいつも下を向いているような方でも、大好きな『パイレーツ・オブ・カリビアン』のテーマが流れると、車椅子が倒れそうになるくらい身体を前後に揺らして踊りはじめます。その他にも、活動の先の見通しを持つ目的で使われたり、情緒安定の目的を果たしたり、音楽が日々の生活、人間の心と深く繋がっていることを実感します。
リトミックの授業の中でも、たくさんの場面で「音楽」が「言葉」の代わりを果たします。例えば、お片付けの曲が流れると、自然と使ったものを片付けはじめる子どもたち。おさんぽのテーマ曲が聞こえてくると自然と足が動き出し、曲のスピードが上がれば子どもたちの足も早くなります。そんな風に言葉の理解度に関わらず、音楽だけで相手とのコミュニケーションが取れるのです。
そして、リトミックでは最も重要とされる”即時反応”という活動がありますが、これは予期せぬ「音」に対して即時的に反応し身体を動かすというものです。もっと細かく分解すると、音を耳で受け取り、脳が反応し、神経系を通じて筋肉へ指令を出す、という訓練のひとつです。活動そのものはいたってシンプルですが、年齢が上がるにつれて音の種類、リズムのレパートリー、動きの複雑さが増していき、脳の処理能力が問われます。こういった活動の先に、動きを通じて音楽の概念を教える「ダルクローズ理論」の提唱者として知られるジャック=ダルクローズは、次のような力が身につくと述べています。
「余儀ない事情から、思っても見ないことを行う羽目になっても素直にそれに従い、
厄介なこともなく反応でき、抵抗も食い違いもなく自分の力を最大限に発揮できる
備えを整えさせること」
ジャック=ダルクローズがリトミックという教育法を研究していたのは1900年代前半、そしてこの言葉を残しているのは1919年です。しかし、この言葉を聞くだけで、現代、そして未来を生き抜く上でも大変重要な力を身につけることができるのだと、受け取ることができるのではないでしょうか。リトミックが単なる音楽教育ではなく、人間教育といわれる所以はここにあります。
リトミックに限らず、音楽というものは生活と密接に繋がっており、心と身体の発達、成長に大きな影響を及ぼすのだと、子育てをしながら改めて実感しています。これからも、教室に通ってくださっているお子さま一人ひとりの可能性を、音楽を通して最大限引き出せるよう、日々サポートしてまいります。
《参考文献》エミール・ジャック=ダルクローズ. リズムと音楽と教育. 板野平監修, 山本昌男訳.全音楽譜出版社. 2018, 序pxi.
アノネ音楽教室 照田 知慧(てるた ちえ)- ”ちえ先生”
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