執筆者紹介:日下 水月(くさか みずき)- ヴァイオリン・ヴィオラ講師
子どもたちからの愛称は”みずき先生”で、アノネ音楽教室に4人いるみずき先生たちの一人。専門の楽器はヴィオラ*。ヴィオラ奏者としては比較的珍しく、ヴァイオリンも巧みに弾きこなします。
*ヴィオラとは…ヴァイオリンやチェロと同様”ヴァイオリン属”に属する。ヴァイオリンと同じ形状でありながら、サイズがひと回り大きい。音域はヴァイオリンより5度(”ドレミファソ”の5音分)低く、ふくよかで力強い音色が魅力。
中学1年生という年代からヴィオラを始め、その後ヴァイオリンをも習得してプロの奏者になるのは極めて異例で、そのこと自体が大変な努力家だということの証です。そんなみずき先生は、美しいヴィオラの音色はもちろん、ヴィオラのようなあたたかさでみんなに愛されています!
アノネ音楽教室 坂村将介(まさ先生)より
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私がヴィオラという楽器を始めた中学1年生の頃のこと。
「レッスンであろうと、家での練習であろうと、本番であろうと、どんな場面でもヴィオラが弾けたら楽しい!」
とにかくヴィオラが大好きだった私は、楽器を弾けることが嬉しくて仕方がありませんでした。
その年に出演した発表会でも「ヴィオラが弾けて最高!」と緊張の”き”の字もありませんでした。そして、ヴィオラを一生弾き続けようと決めたのは、翌年の中学2年生の頃です。そう決意してから、
「ヴィオラを弾いている他の人たちは、どんな音色を出すんだろう?」
「ヴィオラが主役になっている作品には、どんなものがあるんだろう?」
とますます興味が湧き上がり、さまざまなコンサートに足を運ぶようになりました。
初めて聴きに行ったクラシック音楽の演奏会は、毎年1回開催されるヴィオラの祭典『ヴィオラスペース』です。ヴィオラという楽器は、ヴァイオリンと同様長い歴史を持ち、オーケストラになくてはならない大変重要な存在でありながらも、主役として独奏楽器になることは従来稀でした。ヴィオラスペースは、そんなヴィオラの可能性を模索し、さらには次世代の演奏家たちを育てるという目的で、日本のみならず世界各国からプロのヴィオラ奏者が集まり、演奏会やコンクール、レッスンが行われます。20世紀以降に作曲されたヴィオラのための作品や、ヴィオラスペースが現代の作曲家に委嘱して作られた楽曲も数多くあります。
「世界にはこんなに上手な人がいるのか」と、それまでの自分が、井の中の蛙だったことを思い知らされると同時に、「やっぱりヴィオラって素敵だな」と心から感動したことを覚えています。今でも、初めて足を運んだヴィオラスペースで聴いた作品の数々は、忘れることができません。
高校生になってからは音楽大学受験への意識がさらに高まり、受験の練習も兼ねて、コンクールに出場するようになりました。それからというもの、楽器を始めてしばらくの「楽しくて仕方ない!」というときめきは消え去り、
「失敗したらどうしよう」
「自分の前で弾いている人は、同い年だけどあんなに弾けている」
「自分なんてだめだ」
と、人と比べて自分を卑下するようになっていきました。
当時習っていた先生からは、
「自信にはバランスが大事だ。大きいと過信になり、少なすぎると卑下につながるよ」
と慰めの言葉をいただきましたが、どうしても”人と比べる”というところからは抜け出せませんでした。
誰かと比べる音楽というのは苦しいだけでなく、極度の緊張も引き起こします。足が震え、手は冷え、力んでしまって頭が真っ白になる… ほとんど弾いた記憶がないような本番も幾度となく経験しました。
そんな”比べる病気”が治らないまま大学に進学しましたが、そこで多くの音楽仲間や先生方に出会いました。
練習をしてもしてもうまくいかない… そんなスランプに陥ったとき、
「苦労して得た技術はずっと自分のものになるのだから、腐らずにしがみついて頑張りなさい!」
と、先生に励まされながら練習した経験は、今の私の土台になっています。また、
「少しでも自分の中で『これだけは自信がある』と思えるものがあるなら、それを誇りに思っていいんだよ。私は、あなたがあんなにいい音を出せてうらやましい」
という友だちからの言葉は、今でも私を強めてくれています。
一つのことをここまで続けられたのは、好きだという気持ちだけでなく、両親や多くの素晴らしい人との出会い、そしてその人たちからの”言葉”によって支えられた賜物でもあります。
「自分には届かない」「自分にはあんなふうにできない」と、周りを見て失望してしまうことは、音楽に限らず、どんな場面においてもあるかもしれません。もちろん、人を見て自分の立ち位置を知ることは時に有用ですが、まず自分の頑張りや素晴らしいところに目を向けることは、それよりも遥かに大切なことです。
「自分はこれを頑張った」といった事実。
「ここが素晴らしいと言ってもらった」といった誰かの言葉。
そういったことが自信となり、次のステップに向けて踏み出す原動力になります。前述のように、何十年とその人を支え続ける土台になることもあるでしょう。
だからこそ私自身も、技術面でのアドバイスだけでなく、”経験”や”言葉”という種を、一人ひとりのお子さまにたくさん贈っていきたいと、改めて思っています。彼ら彼女らが自信を持って花を咲かせ、実りある歩みを続けていけるようにと願いながら。
アノネ音楽教室 日下 水月(くさか みずき) - "みずき先生"
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