執筆者紹介:濱口 実莉(はまぐち みのり)
子どもたちからの愛称は”みのり先生”。専門の楽器はクラリネット。
お茶の水校・オンライン校 集団音楽教室 水曜日クラス(年中長コース・小学生ベーシックコース)、および土曜日に開講しているリトミックコースの教室長を担当。1歳半から小学生の子どもたちの指導にあたる。また、アノネ音楽教室のイベント運営も担当。学生時代に吹奏楽部を部長として取りまとめた経験も活かし、指導や演奏に留まらない幅で活躍中!
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『ともに紡ぐ』
今年の5月、お茶の水校で開催したリトミックコンサートに、クラリネットで出演しました。ピアノや歌と一緒に、全部で7曲程度ありました。
社会人になり、レッスンや教室全体の運営をしながらコンサートの準備をしてみると、学生時代とは全く異なることを痛感します。
当たり前ですが、クラリネットを始めた中学生から大学生活を終えるまでは楽器に触れない日の方が珍しく、日によって量は違えど、ほとんど毎日練習していました。そんな学生時代の練習メニューはこのような内容でした。
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①ロングトーン(長く美しく音を伸ばす練習。大学時代は3種類をローテーション)
②スケール(音階)全調*
・通常の音階
・分散和音
・スラーバージョン
・スタッカートバージョン
*ドから始まる長調(よく”明るい”と表されます)のハ長調、それが短調(よく”暗い”と表されます)になったハ短調、ミ♭から始まる変ホ長調など、全部で24の調があります。24調×上記の吹き方で練習していました。
③エチュード(練習曲)
④個人レッスンで取り組んでいる作品、オーケストラや吹奏楽で演奏する合奏の曲など
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その日のスケジュールによって適宜短縮したりもしていましたが、全てを丁寧に行うと5~6時間は必要なメニューでした。
しかし働き始めてから、私自身は演奏とそれ以外の仕事を両立するということに奮闘し、楽器に触れる日が少なくなってしまいました。コンサートの出演が決まると必死に練習し始める…。そんな生活です。練習は学生時代ほどスムーズには進まず、今まで簡単にできていたパッセージでも指がもつれてしまい、思うようにいかないことも。気持ち良く演奏できるようになるまでには、想定よりも時間を要するものです。
前述のリトミックコンサートに向けては、リハーサルを2回行いました。初回リハーサルの前日、練習を進めていくなかでどうしても上手くいかないパッセージがありました。そこで、学生時代に行っていたように、テンポを落とし、リズムを変えて何度も練習してみましたが、一定のテンポまでしか上げられず、既定のテンポには届きません。さらに、手がつったような痛みを感じはじめたので練習を終了。その翌日、神経痛のような痛みが残ったまま、初めてのリハーサルに臨むことになりました。
リハーサルの翌日以降、日々の積み重ねの大切さを実感し、「毎日少しずつでも練習しなければ!」と心に誓ったのですが、そう上手くはいきませんでした。他にこなさなければいけないものもあるなかです。アプリ教材の『プリモ』や日々の実技の練習ができず、言い訳を考える子どもたちの気持ちをひしひしと感じたのでした。
その後迎えた2回目のリハーサル前日。時間を確保し、「基礎練習でもするか!」という軽い気持ちで、学生時代に行っていた基礎練習の一部(ロングトーン、スケール(抜粋))を取り入れてみることにしました。よりしっかり練習していた学生時代に比べれば軽い内容ですが、基礎練習を行ってから楽譜の練習を始めると、前回既定のテンポまで上げることができなかった難しいパッセージが、いとも簡単に演奏できてしまいました。もちろん初回リハーサルに向けて練習していたからということもあると思いますが、少し基礎練習をしただけでこんなにも違いがあるのかと、自分でも驚いたほどでした。日頃当たり前に練習していた頃にはなかなか実感することができなかった、日々の練習の積み重ねや基礎練習の重要性を体感することができました。
私がそんな地道な練習にも前向きに取り組めるようになったのは、中学時代の環境があったからだと思っています。クラリネットを始めたのもその頃で、中学校での部活動からでした。入部した吹奏楽部の顧問の先生は基礎をすごく大切にされている方で、全体での基礎練習、パート(楽器)ごとの基礎練習など、練習メニューには単なる個人練習だけでなく、基礎練習の時間がたくさん組み込まれていました。
地道に続けることが必要な基礎練習を友人や先輩と日々取り組む環境にいるなかで、隣に座っている先輩の音色に憧れを抱き、どうしたら先輩のような綺麗な音色が出せるのか、日々考えながら楽器に向かうようになっていました。そこから、美しい音色を出すにはロングトーンで自分の音に向き合う必要があることや、テンポが速いパッセージでの指使いはスケール(音階)の練習が助けになることなど、基礎練習の大切さに気付かされました。そして、自分が必死に出した音と隣の人の音が合わさり、重厚感が増したときの感覚は特別なものでした。この感覚と出会った頃には、1人ではなく、みんなで行う練習が楽しくて仕方なくなっていました。
このような環境に身を置き、基礎練習の重要性を友人や先輩と楽しく学んだ経験があったからこそ、高校に進学して以降、1人で練習する際にも「まずは基礎練習!」と基礎を大切にできたのかなと思います。
さて、私のクラスに通う子どもたちにも、「発表会」という本番が近づいてきています。特に小学生ベーシックコースに多いのですが、個人実技レッスンとあわせて通っている子たちです。クラス中が発表会の話題でもちきりの今日この頃です。
「俺、発表会で〇〇弾く!」
「私は〇〇!ここが難しいんだよ!」
「私はここまでできるようになったよ!」
本番まではお友だちの実際の演奏を聴く機会は少ないのですが、会話からですら、お友だちの頑張りを想像し、自分の活力につなげている子がたくさんいます。
そういった話を聞いていると、彼らが楽器を始めたばかりの頃を懐かしく思います。始めた時期やコースはそれぞれ違いますが、多くが年中長コースの楽器のグループレッスンからスタートしています。当初は楽器を弾くときの正しい姿勢を保つだけでも大変だったことや、指が絡まって思うように弾けず涙していたこと、そして「ここまでできるようになったんだ!」と自慢げに演奏を聴かせてくれたことも覚えています。だからこそ、彼らが小学生になり、私としては「もうそんな曲を弾けるようになったの!?」と驚くことばかりです。私に見えていないところでの子どもたちの努力を想像すると、感慨深いものがあります。
基礎を身に付けるには地道な練習が必要で、時には到底楽しいとは言えないこともあります。一方で、その基礎力こそが新しい曲へ進むときの糧となります。そして、お子さまが私たち大人の手元を離れ、今度は自分たちが大人になってから、自分で音楽を楽しみながら、より豊かに歩んでいくことにもつながっていきます。そんな長い歩みを支えるのは、周囲の大人だけでなく、音楽仲間たる近くにいるお友だちでもあります。
集団音楽教室のレッスンや合宿、クリスマスコンサートなどの場でたくさんの音楽仲間をつくり、切磋琢磨しながら支え合う。そんなふうに音楽を楽しめるような環境をつくることが、私の使命だと思っています。
アノネ音楽教室 濱口 実莉(はまぐち みのり) - "みのり先生"
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