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執筆者の写真広報 株式会社グランドメソッド

リレーコラム:2022年11月『音楽のバトン』伊藤 渚(いとう なぎさ)

執筆者紹介:伊藤 渚(いとう なぎさ)

子どもたちからの愛称は「なぎさ先生」で、音楽合宿や野外体験では「ラプソディ」や「ラプ」という名でもお馴染み。専門はピアノ。アノネ音楽教室の設立から携わったメンバーの一人で、ピアノ科の主任や、二子玉川校の校舎長を務めています。

なぎさ先生は、新たな試みに果敢に取り組むパイオニアでもあります。”マスターコース”という、たくさんコンクールに挑戦したり、音楽専門校を目指したりする方向けの特別な実技レッスンや、大人の方向けのレッスンは、なぎさ先生が発案したもので、自ら講師を担当して牽引しています。明るさと気さくさが魅力の、アイディアウーマンです!

(紹介文:リレーコラム10月号執筆者 村井美月)


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「音楽のバトン」

 10月から約2か月間にわたって開催された、個人実技レッスンの発表会が無事終了いたしました。今年度もコロナ禍での開催において、ご理解とご協力をいただき誠にありがとうございました。総勢300名を超える実技レッスン生一人ひとりの演奏が、唯一無二の魅力を放っていました。また、全身全霊で演奏する彼ら彼女らの勇姿もまた美しいものでした。

 受験生である高校3年生のKくんは、文武両道を掲げ、10月の発表会に出演しました(この場合、音楽を一種の”武芸”と見立てることになりますね)。彼のプログラムは、ガーシュウィン作曲『3つのプレリュード』です。発表会に向けて、自分のペースで着実に曲を仕上げていくKくんの姿を見た私は、

「選曲は彼自身に任せてよかった・・・!」

と、その時点で既に報われた気持ちになったものです。ピアノを弾くことが勉強の息抜きになっていたようで、いつもに増して充実感が伝わってきました。


 発表会前最後のレッスンでのことです。

「発表会で、どんな演奏ができたらいいなあって思う?」

と聞くと、Kくんは

「そうですね・・・。この曲を小学1年生のときに初めて聴いて、『うわあ!こんなかっこいい曲あるんだ!』って感動したんですよ。それでどうしても弾きたくて、当時の先生にすごく音を省いてもらって、なんとか弾いたんですよね。ずいぶん後、YouTubeが流行り始めたときにまた動画でこの曲を聴く機会があって、『あれ、自分が弾いた曲とだいぶ違うぞ』って気づいたんです。そんな経験もあって、今年の発表会に向けて選曲していたときに、ちょうど小学1年生くらいの子たちがたくさんいるし、こんなおもしろい曲があるんだって知ってもらえたら嬉しいなと思って、改めてこの曲にしたんですよね。なので、聴いてくれる人たちにおもしろい曲だと思ってもらえたらいいなって思います」

と答えるのでした。

「そうだったんだね!!!そしたら、10年ぶりくらいにこの曲を弾くってことだよね?」

「そうそう!いつか原曲を弾きたいってずっと思ってたんです」

やり取りはこんなふうに続き、私は彼の言葉からこの曲に対する想いを知り、思わず心が震えました。

 「本当はもっと前からやりたいと思ってたんですけど、クラシックとしてまずは古典派やロマン派、エチュードをやった方がいいという先生の話を聞いて、そうだよなと思ってたからなかなか言えなくて。ベートーヴェンのソナタ、ショパンエチュード、それから去年はシューマンをやったんで、そろそろやってもいいかなと思って・・・(笑)」

と続けて話してくれました。Kくんのその言葉は、私が話したことを真摯に受け止め、理解していたことを示唆するもので、まさに講師冥利に尽きる思いになりました。


 そんな情熱を胸に挑んだ発表会。Kくんの演奏は、本当に素晴らしく、終演後にもたくさんの方から称賛され、Kくんに握手を求めてくださる方もいらっしゃるほどでした。さらに、保護者の皆さまからいただくアンケートにも、Kくんの演奏に感動したというお言葉がたくさん寄せられました。

 数日後、小学4年生のAくんのお母さまより1本のメールが届きました。そこには、Aくんが作曲した譜面の写真が添付されていました。なんと、AくんはKくんの演奏からインスピレーションを受けて作曲したというのです。Aくんは、どうしても私とKくんに見てもらいたいということでした。

 ”憧れ”の曲から夢を持ち、夢を叶えたKくんの演奏を”憧れ”とする下級生たち。この発表会という舞台では、「音楽のバトン」がつながれていたのでした。


 私たち講師が子どもたちの成長のためにできることとは、先を見せてあげられるような環境ときっかけをつくることである、というのが私の持論です。そういった環境があれば、彼らは自分の力で成長していけるのだと信じています。

 「こんなに称賛されたことは初めてでした」

と話すKくん。

「こんなふうになれたのは、先生が受験生であるぼくの発表会のためにたくさん協力してくれたおかげです」

と続けました。

私はKくんとともに今回の発表会を振り返り、

「一つのことを続けることの大切さについてよく言われるけど、今Kくんが話してくれたこととか、Kくんが今回学んだことは、まさに一つのことを続けることで得られる対価なんだろうね」

と話しました。

 このように、10年越しの夢を叶えたKくんにとって、今回の発表会は大きな節目となりました。今回発表会に出演した全ての子が、低学年、高学年、中高生と続く、今後の成長につながるステップを踏めているよう祈るばかりです。その祈りが叶うよう、私たち講師一同、子どもたちの伴走者として、同じ景色を見ながらよりよい環境をつくることに引き続き邁進してまいります。



アノネ音楽教室  伊藤 渚

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コラムに対するご感想などがございましたら、

info@anone-music.comまで、ぜひお寄せください♪


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