リレーコラム:2026年2月 『「もっと上手くなりたい」が生まれた日』佐藤 泉純 (さとう いずみ)
- 広報 株式会社グランドメソッド

- 17 時間前
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執筆者紹介:佐藤 泉純 (さとう いずみ)
子どもたちからの愛称は”いずみ先生”で、専門の楽器はヴァイオリン。お茶の水校火曜日・集団音楽教室『年中長総合コース』『総合(小学生ベーシック)コース』教室長をはじめ、個人実技レッスンコース・ヴァイオリン科講師やジュニアオーケストラコースにおける演奏指導、ヴァイオリングループレッスンの主導講師を担当。教会で讃美歌を歌って育ち、中学時代に合唱部を部長として率いた経験から、やわらかく美しい歌声で合唱や集団レッスンをリードすることも。また、高いデザインスキルを活かしてアノネ音楽教室のWebページの作成も手がけるなど、さまざまな方面からアノネ音楽教室を盛り上げています。
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『「もっと上手くなりたい」が生まれた日』
2月も終わりに差しかかるこの時期は、まさに ”三寒四温” という言葉がふさわしい気候です。桃の花や早咲きの桜の香りに春の気配を感じる日もあれば、2月上旬のジュニアオーケストラでは、子どもたちと残雪を踏みしめ外遊びに出かける日もありました。冬の冷え込みと春の陽気を行きつ戻りつする中、気づけば3月もすぐそこまで迫ってきています。ふと、このところの歩みを振り返ったとき、皆さまにご紹介したいひとつのエピソードが頭に思い浮かびました。
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Yちゃんは、アノネ音楽教室で小学生の頃からヴァイオリンを始め、その後ご縁があって、中学2年生から私の門下に加わりました。
勉強も部活も力いっぱい楽しむ彼女は、レッスンが始まるとまず「先生、聞いてくださいよ!」と、その週身のまわりで起こった出来事から思春期の悩みにいたるまで、なんでも素直にざっくばらんに話してくれます。
そんなYちゃんのレッスンの方向性を大きく変えることになったのが、過去2回の発表会をめぐる一連の出来事でした。
時をさかのぼって、一昨年のこと。日に日に近づいてくる発表会に対し、Yちゃんにはどこか後ろ向きな態度が見え隠れしていました。
「自分が頑張ってもなあ」
学校が生活の中心にある彼女にとって、成績や部活に直接関係のないヴァイオリンにまで力を割く余裕がない──そんな気持ちが生まれるのも無理はありません。
彼女を全力で励まして、曲の仕上げに力を注ぎました。おかげで本番はなんとか無事に弾き終えられ、Yちゃん自身も「先生のおかげでなんとかなったよ」と感謝を伝えてくれましたが、私の中にはなにか釈然としない思いが残りました。
「彼女が大人になったとき、 “ヴァイオリンを続けてきたおかげで今の自分がある” と胸を張って言えるだろうか?」
翌週、私はYちゃんと膝を突き合わせて話をしました。
今回の演奏をどう感じたか、今後どれくらい曲をしっかり仕上げて発表会に臨みたいと思うか──。
すると、彼女はいつもの素直さでこう言ったのです。
「私はヴァイオリンを弾くこと自体が楽しいから、上手くなりたいとか、人前で弾きたいとかはあんまり思ってないんだよね」
そこで、Yちゃんに正直な気持ちを話してくれたことへの感謝を伝えた上で、私の考えを真剣に話しました。
学校生活も部活も、Yちゃんが楽しめることを心から応援している。
そして同じくらい、発表会も楽しめる力をつけてほしいと思っている。
なぜなら、どんな状況でも自分で面白さを見つけて楽しめる人は本当に素敵だから。
そして、そんな大人になるための秘訣は「何事も本気でやる」ことだと思う、と。
私の言葉を聞いたYちゃんは、ヴァイオリンに対してくすぶる思いを抱えていたようで、私の提案に不安と期待が入り混じったまなざしでうなずいてくれました。
こうして、私たちの一年にわたる挑戦が始まったのです。
次年度の発表会に向けて曲を決め、月ごとの目標を立て、少しずつ着実に歩みを進めていきました。とはいえ、近況報告の時間には楽器を置いて会話に花を咲かせ、「さあ、やるぞ」と切り替えて練習に向かう──という具合でした。
それでも、発表会が近づく時期になると、Yちゃんの「もっと練習したい」という気持ちに応えてレッスン日程を調整することもありました。本番2週間前には「明日から文化祭なんだけど、ほんとは休んで練習したい」という名言(?)まで飛び出したほどです。さすがに、文化祭は思いきり楽しんでおいで、と送り出しましたが、その言葉が出てきたことにも大きな成長を感じました。
そして迎えた今年度の発表会で、Yちゃんは1年前とは比べものにならないほど堂々と演奏してみせました。練習でつまずいていた箇所も見事に弾きこなし、不安だった暗譜も着実にクリア。緊張で指がもつれる場面はあったものの、積み重ねてきた努力が確かに結実した瞬間でした。
しかし──演奏を終えた舞台裏で、彼女は泣いていました。
すごく素敵だったよ、と私が言っても首を横に振るばかり。
「想像以上に緊張した。普段なら絶対失敗しないところが弾けなかった。いつもならもっと上手に弾けるのに……」
と声に悔しさをにじませていました。
かつてのYちゃんだったら、本番を終えた直後に泣くほど辛い思いはしなかったかもしれません。けれど彼女はこの1年間、地道な練習にも本気で取り組んできました。この日を目標にコツコツ積み上げてきた自負があったからこそ、「もっと上手く弾きたい」という気持ちがいつのまにか強く芽生えていたのです。そして迎えた正念場で、思い描いた理想にあと一歩届かなかった現実が、悔しくてたまらなかったのでしょう。
「楽しければそれでいい」とどこかで線を引いていたYちゃんは、もうそこにはいませんでした。
「悔しいと思うなら、まだまだ上手になれる。また一緒に頑張ろう」
私の励ましに、Yちゃんは涙を飲んでリベンジを誓い、今年度の発表会は幕を閉じました。
レッスンに向き合う姿勢や、思い描くゴールは、家庭や一人ひとりによって本当にさまざまです。そしてそれらは、ときには対話を重ねる中で初めて見えてくることもあります。
もし1年前の発表会のあと、Yちゃんと私が心の内を語り合わなかったら、今の未来はなかったかもしれません。
子どもたちの可能性を信じ、物事への向き合い方から、どんな結果でも一緒に受け止め、次へつなげていくところまでやりきること。音楽を通してそのすべてに伴走していくことこそが、子どもたちの力になるのだということを、これからも忘れずにいたいものです。
まもなく始まる新年度。また1年を通して、子どもたちの挑戦と成長の瞬間に立ち会えることを、心から楽しみにしています。
アノネ音楽教室 佐藤泉純(さとう いずみ)-いずみ先生 -
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