執筆者紹介:山下 優(やました ゆう)
子どもたちからの愛称は「ゆう先生」。専門は作曲。
「どんなゲームをして、みんなと楽しもう?みんなが面白がって音楽に取り組むにはどうしたら良い?」と常に考え、教室では子どもたちよりもゆう先生が元気!なんてこともしばしばあります。一方で、「ダメなことはダメ」と厳しく、愛を持って子どもたちに伝えてくれる。名前の通りとっても優しさあふれる先生です。
ピアノ・作曲の個人実技レッスン講師をはじめ、紙面&アプリの教材開発、イベント運営、人材育成など、多岐に渡る業務を担当しています。
(紹介文:リレーコラム7,8月号執筆者 勝野 菜生)
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「先生にできることは、もうない!」
気づけば、私が担当する実技レッスンの生徒の8割が、小学校高学年や中学生になりました。アノネ音楽教室も、今年で開校8年目です。開校当初から通っているお子さまであれば8つも年を重ねていて、当時6歳だった子は14歳になっています。そんな彼らの姿を見る度に、月日が経ったことを感じます。また、これだけ長きにわたってお預けいただいている保護者の皆さまへの感謝の念が尽きません。最近ご入会いただいた皆さまにも安心してお通いいただけるよう、アノネ音楽教室一同努めてまいります。
この度は、長く通っているお子さまの成長の様子をぜひお伝えしたく、現在中学3年生Kさんの歩みをご紹介します。Kさんは、小3のときに集団音楽教室 小学生ベーシックコースに通い始め、小4からピアノのレッスンを開始しました。現在は、部活のバレーボール部で部長を務め、さらに高校受験に向けての勉強に励んでいます。その傍ら、ピアノのレッスンや、集団音楽教室 エキスパートコースの中高生クラスに在籍しています。勉強や部活で忙しいなか、お友だちと過ごす時間を作り、ピアノの練習も頑張っていて、青春真っ只中です。はっきりとした自分の理想の音楽があり、表情豊かでとても魅力的な演奏をするKさんは、私の自慢の生徒です。明るくチャーミングな性格で、先日の夏の音楽合宿でも、Kさんの周りはいつも笑い声であふれていました。
そんなKさんは、6月にピアノの検定試験(年に1度、級ごとに決められた課題曲に取り組む試験。講師がお子さまの試験での演奏を観て、成長や長所、課題に関するフィードバックを行います)に挑戦しました。勉強に、部活に、ピアノにと頑張っていると先述しましたが、現実は華やかなことばかりではありません。どれも地道な努力が不可欠で、悩みや葛藤が尽きないものです。平日だけ見ても、部活には朝練と放課後の練習があり、塾は夜の21時頃まで続きます。また、検定試験の頃は、ちょうど中学校の定期テストや、修学旅行が重なりました。Kさんは朝ご飯のタイミングでアプリ教材『プリモ』に取り組み、できるときにはその後にピアノの朝練をしてから学校へ行きます。部活がお休みの際にピアノの練習時間を多く取ったり、塾から帰ってきたら「手を洗った後、そのまま1回でもピアノを弾く」という目標を一緒に掲げたりして、検定試験の準備を進めました。長年の積み重ねの成果もあり、楽譜を読む時間が随分と短縮され、たとえ短い時間の練習であっても、着実に仕上げていくことができました。
また、Kさんとはレッスンの度に、ピアノのことだけでなく、部活や勉強、日常のこともよく話します。Kさんの部活のお友だちには会ったことはないのですが、大体どんな子がいるのかわかるくらいにまでなりました(笑)。Kさんにはやりたいことがたくさんあるけれど、時間も体力も限られており、一生懸命だからこそ日々葛藤を抱えているようでした。中学生となれば、自分の理想と現実の差に気づくものです。
「頭では大事なことはわかってはいるけど、なかなか行動がついていかない」
Kさんはそんなふうに悩んでいました。毎回のレッスンで色々な話をしてきたのは、そんな彼女を少しでも励ませればという思いからです。
本番まであと数週間というときに、うまく弾けない箇所があり、電話をつなぎながら一緒に練習をしたことがありました。ただ、その1回だけではうまく弾けるようにならず
「先生にできることはある?毎日決まった時間に電話しようか?」
とKさんに聞きました。
Kさんとは、発表会や検定試験など、毎年数々の本番をともにしてきました。今まで
「本番に間に合わないかもしれない!」
と焦って、毎日私と電話をつないで練習したこともありました。それを思い出して聞いてみたのです。するとKさんは
「先生にできることは、もうない!」
と言いました。
「練習しなければ上達しないことはわかっている。どうやったら上達するか練習の方法もわかっている。あとはそれを自分がやるだけだから、先生にできることはもうないんだ」
それは、Kさんの「自立宣言」でした。いつの間にこんなにたくましく成長したのかと嬉しい気持ちになりつつ、実は寂しい気持ちにもなりました。Kさんは自分で頑張ると宣言をしたので、私は信じて待つしかありません。私の方がそわそわとした毎日を送りましたが、その後、レッスンで演奏を聴く度に上達していました。自立宣言通り、Kさんは自分で自分の成長を勝ち取りました。
そして迎えた本番。
「悔しい気持ちもあるけど、やり切った」
と、清々しい表情で演奏を終えていました。
Kさんの「自立宣言」について、お母さまとは
「ここまで長かったですね」
と話していました。なかなか練習の習慣がつかず、お母さまと毎週のように電話をして作戦を考えたこと。本人から、練習がうまくいかず、助けを求める電話がかかってきたこと。また、お母さまとは、ピアノのことだけでなく、Kさんの友人関係の悩みや、反抗期特有の話をしたこともありました。そんな長年のドラマは、この記事には書ききれないほどです。
音楽面・技術面での成長と、精神面での成長が相まった「自立宣言」は、Kさんにとっての大きな節目だと感じます。紆余曲折ありましたが、「継続は力なり」という言葉通り、Kさん自身の頑張りと、ご家族のサポートによってここまで辿り着きました。しかし、音楽的にも、精神的にも、大人になるまでに私から伝授したいことはまだまだたくさんあるので
「これからも頑張りましょう!」
とお母さまと一緒に改めて気合を入れました。
ここは音楽教室です。しかし、お子さまの音楽面での成長だけを目指すのではなく、その成長を通していかにその人の魅力を紡ぎ、人生を切り拓いていけるかということを見据えています。学校でもなく、家でもない居場所として、豊かに成長できる場所として、アノネ音楽教室をお役立ていただければと思います。勉強や受験、人間関係など、生きていれば様々な試練があります。だからこそ、お子さまにとって音楽が慰めとなるように。また、一人ひとりの強みとなるように、引き続き努めてまいります。
年齢を重ねるごとにお子さまはますます忙しくなっていきますが、振替やオンラインでのレッスンを活用しながら、Kさんのように中高生に至るまで楽器を諦めることなく継続することが可能です。そんなKさんの頑張りが、他のお子さまの希望となればと願っております。
アノネ音楽教室一同、”100%お子さまを信じる大人”として、これからもご一緒に成長を見守ってまいります。
アノネ音楽教室 山下 優
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