執筆者紹介:村井 美月(むらい みづき)
子どもたちから「みづき先生」と呼ばれていて、専門はピアノ。アノネ音楽教室では、ピアノの実技レッスン講師と、集団音楽教室『小学生ベーシックコース』『年中長コース』の教室長を務めています。さらに、花まる学習会でも、教室長として年中〜小学6年生までの集団授業を担当しています。学生時代から長年、学童保育や学習塾、音楽教室のアルバイトをしていたほど、子どもたちとワイワイ楽しく過ごすことが大好き。バイタリティにあふれる、エネルギッシュな先生です。
また、個人実技レッスンの発表会の運営も担っています。子どもたちの成長を何よりも大事に考え、授業やレッスンも、運営もより良いものを目指し続ける努力家です!
(紹介文:リレーコラム9月号執筆者 山下優)
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「価値を伝える言葉」
個人実技レッスンの部門では、秋の発表会のシーズンが折り返し地点まで来ました。10月に出演した皆さまへの拍手とともに、11月に出番を迎える方々にもエールをお送りできればと思います。
私自身は発表会の運営に携わっているのですが、自分の生徒に加え、各講師のレッスンに通うたくさんのお子さまの演奏に触れることができています。そんな幸せな役割を務めるなかで、今年も改めて感じることがあります。それは、たった一度の舞台での演奏が、演奏者たるお子さま自身に成長をもたらし、聴き手の心を動かすのだということです。
舞台で演奏できるのは一度きりで、たった数分。ですが、その時間は”自分の力でやり切らねばならないもの”です。緊張のなか、頭が真っ白になっても、楽譜を見ることも、誰かに頼ることもできません。また、私たち講師や保護者の皆さまは、お子さまの不安な気持ちを痛いほどわかっていながら、見守ることしかできません。本番を迎えるという試練を前にすれば、子どもも大人も変わらず、一人で立ち向かっていかなければならないのです。しかし、そのように子ども扱いされない、ある種厳しい環境を経験することが、お子さまの自信や誇りにつながります。
多くのお子さまが演奏する姿を見て、緊張に負けじと演奏していた過去の自分を思い出しました。
幼稚園生の頃の私は、 緊張など全くせず、手を振りながら舞台を歩いていたと母から聞いたことがあります。まだ人前で演奏することに抵抗がなく、 みんなが私だけに注目してくれて、お辞儀をすれば大きな拍手を送ってもらえることが、何よりも嬉しかったものです。演奏すれば周りから褒めてもらえる。そのことは、お稽古を初めた頃ピアノに向き合い続けるうえでの大きな原動力になりました。
しかし、曲の難易度が上がってくるにつれて、なんとなくの練習(”ただ弾く回数を増やす”、“通し練習だけ”など)ではうまくいかなくなり、緊張で平静さを失うことも出てきました。そのうち、ピアノの椅子に座ると
「間違えたらどうしよう」
「いつもは弾けるのに不安になってきた」
と、マイナスな思考のループにはまってしまうこともありました。そして、本番で失敗すると、悔しくて涙を流して落ち込むこともありました。
ただ、初めて失敗だと思った舞台の後は、辛さや大変さを優に超える喜びを毎回得ることができたのもまた事実です。無条件に達成感を得られたのは成功したときですが、たとえミスがあったとしても変わらなかったのは、私を見てくれた大人の言葉がけでした。
舞台での演奏の後の両親や先生方の言葉で印象に残っているのは、
「あんなに素敵な演奏、お母さんにはできないわ」
「とってもいい音が出ていたよ」
といった、あたたかいものばかりです。おしかったところについては、当人の私が一番真剣に受け止めているということを、両親も先生方もよくわかっていたように思います。年齢が上がれば課題についてコメントをいただくこともありましたが、先にやり切ったことを認めてくれる言葉があったことに救われました。どんな結果でも、
「私はよくやったんだ」
と、自信とともに、悔いなく締めくくることができたからです。
年齢が低いほど、自分の言葉で締めくくることは難しいものです。だからこそ、大人がいかに価値を言い表すのかが重要だということを、身を持って感じます。
先述したように前向きな思いを持つことができたからか、本番を重ねるほどに
「今度はあの子が弾いていたあの曲を弾いてみたい」
「次はこう弾きたい」
と、さらなる意欲が芽生えたのでした。 “今回弾いたから終わり”ということではなく、本番の後のわくわくした気持ちから、次を目指せたということです。
認めてくれる大人の言葉。一緒にがんばる音楽仲間であるお友だちの姿。自分にはまだ弾けない先輩たちの演奏に触れて、憧れの曲ができること…。いつしか、プラスな思考のループに乗ることができていました。
「今度は…」
そう思えることは、年齢が上がるほど、自分の演奏を振り返ることにつながります。私自身、どんなにうまくいっても、毎回何かしらの課題を見出してきました。だからこそどんな練習をすればいいのか真剣に考えるようになり、先生からのアドバイスにはただ従うのではなく、心から耳を傾けることができるようになりました。そのうちに
「この難しい部分が弾けるようになった」
「テンポを上げられるようになった」
と、本番に向けた練習を通して一つひとつクリアすることが楽しくなっていきました。
そのような経験から、長期的な目で見れば、本番でミスがあってもそこをかいつまんで指摘するよりも、本番をやり切ったという自信のうちに締めくくることが、豊かな成長につながるのではないかという信念を持つに至りました。私自身の今は、そんなふうに見てくれていた大人の支えがあったからこそのものです。
発表会でのお子さまの勇姿を見ながら、私自身のかつての姿と、育ててくれた人たちへの感謝が改めて湧き上がってきました。私の役割は、そのバトンを次に渡していくことです。皆さまがより前向きにステップアップしていけるように。そして、長い人生での歩みを支える何かを得られるように。アノネ音楽教室一同、今後も保護者の皆さまとご一緒に、お子さまの成長をサポートすることができれば嬉しく思います。
アノネ音楽教室 村井 美月
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