リレーコラム:2025年10月 『本来持っている輝きを見つけるまで』町田 光優(まちだ あきひろ)
- 広報 株式会社グランドメソッド

- 6 日前
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執筆者紹介:町田 光優(まちだ あきひろ)
集団音楽教室『年中長総合コース』『総合(小学生ベーシック)コース』『高学年総合(エキスパート)コース』 教室長、合唱指導者。
「授業やレッスンはお祭りみたいに楽しむもの!」と学ぶことの楽しさを体現し、子どもたちからも大人気の”まっちー先生”。今年度に入って、毎日朝から子どもたちと全力で学び、遊び、成長や変化をとことん見て導く、アノネエレメンタリースクールの主任です。
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『本来持っている輝きを見つけるまで』
アノネエレメンタリースクール(アノメン)が始まって、半年以上が経過しました。おかげさまで活動も軌道に乗ってきています。8月にはアノネ音楽教室・中高大学生ユースセッションコースの在籍生も交え、みんなで高尾山に登ってきました。9月にはアノメン初の宿泊企画、長野県安曇野市で「林間学校」を開催。10月には畑でみんなで一生懸命育ててきたサツマイモの収穫もできました。そして、年末のアノネ音楽教室主催のクリスマスコンサートに関しても、アノメンの子たちの参戦が決まっています。アノネ音楽教室とアノネエレメンタリースクール。どちらにも関わる身としては本当に嬉しい限りです。音楽を通して、小さな子から大きな子まで、それぞれの個性を持つ子どもたちが、演奏を通して美しい響きを体感し、ひとつになれる——そんな貴重な機会を、私自身も心から楽しみにしています。大きなイベントを開催したり、参加したりできるようになったのも、日々の小さな積み重ねがあってこそ。保護者の皆さまの日々のサポートや応援、アノメンスタッフ側との連携など、いつもありがとうございます。
さて、アノネエレメンタリースクールにはさまざまな背景を持った子が集まっていますが、今回は小学4年生Aさんのことを紹介します。
「寝る直前まで “アノメンにはもう二度と行かない!” と言っていました」
Aさんの体験授業を終えたその日の夜に、お母さまからいただいたメールです。
小学4年生のAさん。在籍していた小学校では、新年度の開始もそこそこに「勉強がイヤだ」「もっと自由がいい」と言って行き渋りがはじまり、学校に行ったり行かなかったり、別室登校をしてみたりと、安定しない状態が続いていました。そんな状況の下、アノメンの存在を知って体験に来ることになりました。初めて体験に参加したAさんは外遊びを存分に楽しみ、アノメンの子たちともあっという間に打ち解けて、鬼ごっこやしっぽ取り、人狼ゲームなどで公園を駆けまわっていました。アノメンでは1日の最後に「Good Things」という授業をします。1日の「良かったこと」「嬉しかったこと」「誰かやなにかへの感謝の気持ち」を言葉にする時間です。Aさんは最初「私は別にいい! 発表しない!」と言っていました。しかしみんながハイ! ハイ!と手を挙げて発表している内に、気づけば、「ハイ!」と手を挙げて「人狼楽しかった!」と発表していました。順調に終えた1日目。もともと聞いていた消極的な様子とは違うように見え、むしろとても活発で元気がありあまっているタイプなのだなと感じるほどでした。
しかし、お母さまが迎えに来てから少し空気が変わりました。自分で荷物を持とうとせず、さらにお母さまと並んで歩こうともせず、フラフラと勝手に全く別の道や関係のないお店などどこかに行こうとする。そういった年齢不相応で自分勝手な行動が急にたくさん見えたので、さすがに強く叱りました。
「お母さんと一緒に歩こうよ! 車も通るから危ないよ!」
するとAさんは、
「うるさい! こっちに来るな! お前は関係ないだろー!」
と反抗。お母さまはハラハラした表情でその様子を見ておられました。無事に終わるかと思った1日が、最後の最後に大荒れで幕を下ろし、そしてその夜、先ほどご紹介したメールをいただきました。お母さまと相談して、翌朝は直接家まで迎えに行くことになりました。
翌朝うかがうと、玄関の外まで「行かない!」というAさんの声が響いていました。部屋に入ると、物を投げ、壁を蹴り、抵抗する。対話はほとんどできない。そんな状況下で、粘り強い説得の末、ようやく外に連れ出すことができました。玄関外で寝転がるAさん。時計を見ると2時間経っていました。とことんぶつかりあった後は意外にもスムーズに運びました。Aさんはみんなと一緒に畑に行き、自分でクワを持って土を耕し、なんなら走って畑を駆けまわる姿も見られました。教室に戻る電車のなかで、さすがに疲れたのか、Aさんは寝落ちしていました。教室に着くと昨日のように、アノメンの仲間たちとごはんを食べ、授業を楽しむなど、子どもらしい姿で過ごしていました。授業後、お母さまと改めて電話で話すと、ご家庭の状況が詳しくわかってきました。
もともとは家にテレビすら置いていなかったそうですが、あるときから兄弟姉妹のもとに電子機器が導入されました。ゲーム、スマホ、パソコン——。それらが急に日常の中に入り込んだことで、期待していた世界とはまるで違う風景が出現しました。活用の仕方を工夫するどころか、気づけばYouTubeやゲーム一色。ルールを決めても、次第に形だけになり、守られなくなっていきます。
ある日、お母さまが仕事を終えて帰宅すると、同じ部屋にいながら家族全員がそれぞれの画面を見つめている光景がありました。
「どうして、家族らしく一緒に過ごすことができないんだろう」
そう感じて、胸の奥にやるせなさが広がっていったといいます。そこからは、夜ふかしをして朝起きられないルーティンが子どもたちのあいだで定着してしまい、どんどん家庭内の基準が乱れていったそうです。
お母さまは、
「叱っても全然効かないから変わらなくて、変わらないから、ただ私が疲れるだけで。だから最近は叱ること自体が大変で嫌になってしまって…。」
と辛そうに仰っていて、その気持ちは痛いほど伝わりました。がんばらなくても、ほしいものが全部手に入っている。子どもたち自身がこの状況を問題だと考え、態勢を立て直そうとしなければなにも変わらないわけです。お母さまには、思い切って家にある電子機器をすべて預かり、別の場所に保管していただくことにしました。娯楽はがんばっている子のためのご褒美です。「がんばる」の中身には個人差があれど、日々当たり前にやるべきことをやっているからもらえるもの。基準を改め、がんばった分に応じて使用できるようにしてもらいました。どれだけ荒れるかと思いきや、あれだけ中毒のようにゲームやYouTubeにのめり込んでいたのに、理由を伝えると意外なほどすんなりと受け入れたそうです。
ある夜、お母さまとの電話の中で、興味深い話がありました。
「家での時間の過ごし方が変わってきてます」 「さっき、家族でUNOをしたんです。気づいたらみんなで笑い合っていました」
「久しぶりにこんな時間を過ごせたんです」
ちょっとした日常のエピソードから、ご家庭のなかで確実に良い変化が兆していることがうかがえました。
そしてAさんはある日、一人でアノメンに来ました。
「今日はひとりで来たんだね」
うん、と言って荷物を置くAさん。その小さなうなずきに、瑞々しい希望の芽吹きを見た思いでした。
登山活動の日、Aさんはずっと笑顔でした。
「どう?」と聞くと、
「楽しー! すごい楽しー!」
下の学年の子とペアを組み、さらに小さな子を引っ張っていく。途中で泣いていて挫けそうな子がいたときも、
「もうちょっとだよ! 頂上着いたらお昼ごはん食べられるよ!」
と励まし続けてくれたそうです。この間まで母と並んで歩けなかったAさんが、いまは誰かの手を引いて歩いているのです。その後の活動時も、
「次の高尾山いつ!? 楽しみ! 行きたい!」
とイキイキした表情で話してくれる姿に、明らかな成長を感じました。これがきっとAさんの本来の姿。人当たりが良く、仲間想いで、アクティブに外の活動を元気いっぱいに楽しむ性格だったのです。
劇的なAさんの変化は、お母さまの見守る姿勢によってもたらされたに違いありません。お母さまはこちらが提案したことをすぐに試してくださり、迷ったときはいつも相談してくれました。私たちと一緒になって我が子の可能性を信じてくださったからこそ、大きな一歩を踏み出すことができたのです。
Aさんに限らず、「行けない」「行きたくない」の要因は様々ですが、 食事・睡眠・娯楽管理、親子の関係の構築の仕方など、基盤や土台となる部分が崩れていて、それが主要因であるケースが多くを占めています。また、その子ひとりの問題ではなく、家庭内における些細なすれ違いや、兄弟姉妹との関係の歪みが影を落としている場合もあります。大抵は基盤や土台がきっちり決まると、その子本来が持つ輝きがぱっと現れて、上手くいくケースが多いです。ご家庭のなかだけでは解決が難しい場合も多いかと思います。そんなときはぜひ、私たちに頼ってほしいのです。今回の件のように親子別々に対応させていただくパターンも、親子同席の面談で一緒に解決手段を探っていくパターンもあります。中学や高校、「これから」の未来を見据え、最終的に「メシが食える大人」に育てていく。子どもが自立して生きていくその日を期待させる、日々成長できる場として、同時に保護者の皆さまと深い信頼関係を築く場として、これからも教室づくりに力を注いでまいります。
アノネ音楽教室 町田 光優(まちだ あきひろ)- ”まっちー先生”
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