執筆者紹介:牛島 みずき(うしじま みずき)- コントラバス講師
子どもたちからの愛称は”みずき先生”で、アノネ音楽教室に数名いるみずき先生たちの一人。専門の楽器はコントラバスで、ジュニアオーケストラやヴァイオリングループレッスンなど、特に弦楽器のクラスで活躍しています。気さくな性格の持ち主で、年中・年長さんから中高生、保護者の皆さままで、幅広い年代に慕われています。
大きなコントラバスは、比較的高い年齢になってからスタートするということが多い楽器です。現在小学校高学年や中高生で、アノネ音楽教室に何年も通っている子が、みずき先生のコントラバスのレッスンを始めるケースも増えています。
「僕も大きくなったら、みずき先生が弾いているかっこいいコントラバスをやってみたい!そのためにも、今通っているクラスでがんばるぞ」
下級生たちに、そんな子もたくさんいるのだとか・・・!
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『10年後』
「あのさ、楽器を弾いているときにお腹が減ったらどうするの?」
ある日のジュニアオーケストラの練習中、小学2年生のAくんが首をかしげながらこう聞きました。あまりにも突然の発言だったため、その練習室にいた全員の目が点に。そして、その場はすぐに笑いに包まれました。
その質問が挙がった時刻は11時40分。ちょうどお昼休憩前のお腹が空く時間帯でした。周りの中学生のお兄さんお姉さんたちも
「あーお腹空くよねー!」
「わかるー!」
と、思わず笑顔に。
「お昼ご飯まで我慢するんだよ」
と、優しく回答するお姉さんもいました。感じたり疑問に思ったりしたことをすぐ言葉にするのは、多くの幼少期の子どもたちが持つ、素直でかわいらしい特性だなとつくづく思います。
現在、ジュニアオーケストラでは、小学1年生〜高校3年生の子どもたちが一緒に弦楽合奏のレッスンを受講しています。Aくんの発言を機に、そういえばなぜこんなにも年齢層がバラバラの子どもたちが集まっているのに、レッスンがスムーズに成り立つのか、疑問に思えてきました。
しかし、その答えはすぐに見つかりました。中高生たちが、大人の私たちも気が付かないほど自然に、下級生たちをフォローしていたのです。失くし物があれば一緒に探し、重い物は率先して運びます。体格の差があるのはもちろん、小学校低学年と中高生が同じ精神年齢であるはずがありません。しかし、前述のAくんのような幼少期特有の行動や言動にも嫌な顔ひとつせず、笑って受け止めています。そんな姿を、私自身いつも心から素晴らしいなと思いながら見ております。
実際に、下級生たちにとっても、中高生のお兄さんお姉さんは憧れの的です。
アノネ音楽教室では年始に『お弾き初め』という、弦楽器のレッスンを受講している方を対象とした特別授業を開催しております。お弾き初めには年中以上の年代になると参加でき、ジュニアオーケストラよりさらに幅広い年齢の子どもたちが一緒にコンサートホールのステージに立ちます。毎回お弾き初めが終わると
「上手なお兄さんお姉さんに交じって、ホールで演奏できて楽しかった!」
「お兄さんお姉さんが弾いていたあのかっこいい曲を弾けるようになりたい!」
など、聞いていて嬉しくなる感想がたくさん子どもたちから出てきます。生活面のサポートから、楽器演奏に対するモチベーションを上げることまでできる中高生たちなのでした。
しかし、そんな中高生たちも最初から”素敵なお兄さんお姉さん”だったわけではありません。ある中学生のお弾き初めでの優しく頼もしい姿と、その子のかつての様子をご紹介します。
お弾き初め本番の前日、事前練習をお茶の水校で行いました。その際には地下の練習部屋に30名を超える子どもたちが集まり、決して広々としたスペースがあるとは言えない状況でした。そんななか、一番後ろの席に座った小学2年生のBくんが、前に立つ先生を見ようと必死に背伸びをしていました。
そんなBくんの姿を見た中学生のCくんは、
「僕が前にいたら見えないよね。前においでよ!」
と、すかさずBくんに声をかけてくれました。
しかしBくんの返事は
「嫌だ!!僕見えるもん!!」
というもの。
二人の身長差は約40cm。Cくんが前に立ったら見えるはずがありません。それでも、「絶対ここがいい!」と言い張るBくん。彼なりのプライドがあったのでしょう。そんなふうに親切を断られたCくんですが、憤慨するわけでもなく、「ふーん」と何事もなかったかのように席につきました。
Cくんのすごいところは、ここからです。なんとBくんが演奏に集中している最中、そっと自分の席を横にずらしたのです。本人が意識していたかは定かではありませんが、少しずつ少しずつ椅子を動かしたので、気が付かないうちにBくんの前には隙間ができ、すっかり前が見えやすくなっていました。
私はこの光景を見て涙しそうになりました。なぜならばこのCくん、小学生の頃はいわゆる”超わんぱく坊主”だったのです。お友だちとしょっちゅうけんかし、先生に叱られていました。音楽合宿では、ゾウさんのイラストがプリントされているゼリーをお友だちと取り合って大げんかしたことも(今では当人たちの間でも笑い話だそうです)。そんな彼がすっかりお兄さんになった姿を目の当たりにして、感動せずにはいられなかったのです。もしかしたらわんぱく坊主だったCくんだからこそ、Bくんの「絶対動きたくない!」という言葉の真意を無意識に理解し、汲み取ることができたのかもしれません。
よく中高生子たちに
「先生たちって『おおきくなったねー』とか『立派になっちゃって』とかよく言うよねー!(笑)」
と言われます。私たちも気が付かないうちに言葉に出てしまっているのでしょう。それほど彼ら彼女ら一人ひとりが愛おしく、成長が嬉しいのです。
アノネ音楽教室は間もなく10周年を迎えようとしています。あんなに小さかった子たちが、下級生に慕われる立派なお兄さんお姉さんになりました。これからもさまざまな経験を重ね、素敵な大人になっていくのでしょう。そして今、幼児期特有の素直さとやんちゃさで元気いっぱいな子どもたちも、先輩たちのように、音楽や周囲とのコミュニケーションを通してすくすくと成長していくことと思います。私たち講師陣とって、その喜びを保護者の皆さまと一緒に分かち合えることが、一番のやりがいです。さらに10年先を楽しみに見据えつつ、お子さまが『アノネ音楽教室に通っていてよかった!』という気持ちで、実りある経験をたくさん積んでいけるよう、これからもサポートしてまいります。
アノネ音楽教室 牛島みずき
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