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リレーコラム:2023年6月『実体験の力』坂村将介(さかむら まさゆき)

執筆者紹介:坂村 将介(さかむら まさゆき)

子どもたちからの愛称は”まさ先生”。専門は作曲。

現在は、アノネ音楽教室の教材開発や年中長・小学生・中学生・高校生の集団音楽教室(ソルフェージュ・ヴァイオリン・ピアノ)の教室長、都内のブリティッシュ系インターナショナルプリスクールの音楽科主任を務め、計200名以上を担当。

代表の笹森とともにアノネ音楽教室を立ち上げ、『ぽるか』『きりえ』など、当教室で扱う世界各地の歌の選曲や、それらのレッスンやコンサート向けの作編曲を全編手がける。クラシック音楽のみならず、ケルトやアラブをはじめとする、さまざまな文化圏の楽曲や弦楽器を演奏・研究。


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『実体験の力』


 パンデミックの波もようやく落ち着きつつある今日この頃。これまでの約3年間から得られた教訓や収穫は多々あります。一方で、子どもたちがその期間にできなかったことにどんどん挑戦できる場を届けていくことが、これからの私たちの務めなのだろうと思っております。


 この6月には、アメリカはインディアナ州より子どもたちの合唱団(Fort Wayne Children’s Choir、以下FWCCと記載)の中高生メンバーが来日し、アノネ音楽教室の上級生たちと合唱でコラボレーションする機会に恵まれました。1日目は練習に加え観光などの交流プログラム、2日目にコンサートで共演するというものです。海を越えて来る同世代を迎えての、対面の合唱。まさに情勢の変化を象徴するような場で、そこにいる誰にとっても大いに刺激的な会でした。


 私自身はいつもながら指揮と合唱の指導を担当し、日米の子どもたちと音楽面でやり取りをする役割をいただきました。来日した彼らは、私たちに比べれば肌の色も体格も多様。そんな初めて会う集団を前に、中高生ともあれば多少突っ張っている子がいてもおかしくないだろうと思って臨みましたが、杞憂でした。彼らが人の話に耳を傾けようとする姿勢は明らかで、「いいものをつくりあげたい」という同じ思いがあることを肌で感じました。


 先方のJonathan Busarow(ジョナサン・ブサロウ)先生によれば、FWCCでは読譜力やソルフェージュ能力(音楽の基礎能力)を培うことに重きを置いているとのことでした。そして、”Music heals humankind”(「音楽は人類を癒やすもの」)という考えのもと取り組んでいるともおっしゃっていました。音楽を通して心を育むことに取り組んでいるということは、前述のようなFWCCの子どもたちの姿勢からもよくわかりました。


 そんなふうに、音楽面、心の面のどちらにおいてもアノネ音楽教室と親和性がありましたし、確かに練習時から一体感は充分。言語や文化は違えど、志は同じという点がなんとも感慨深いのでした。一緒に歌った曲目のなかには、日本語の唱歌『故郷(ふるさと)』、英語のカントリーポップ『Country Road(カントリー・ロード)』*がありましたが、言語や曲想は全く違えど、同じように故郷を大事に思う気持ちが込められていました。まさに、音楽を通して互いの心をつなげるような演奏会になり、半月が経った今でもその余韻は続きます。

*John Denver(ジョン・デンヴァー)によるヒットナンバー。日本では映画『耳をすませば』の主題歌としても有名。


 普段から、友だちとの帰り道や雑談する時間が好きで音楽を続けているという子は少なくありません。今回はそこに、”国際的”な交流だったという特大級の付加価値がついていました。子どもたちはその貴重さをよく理解していて、日本側の中学2年生のAくんからは「もっと一緒にいたかったのに!2日じゃ足りない」というクレームを直々にもらいました。


 当初Aくんは、「英語なんか苦手だし、全く話せないよ」と言っていました。しかしそんな発言の数十分後には、実は海外経験が豊富なのではないかというくらい打ち解けて、同じ班のアメリカ人の男の子からの問いかけに”Yeah!”(「イエア!」)と返答しているのでした。「ここで動画を撮っておけばよかった!」と思った瞬間です。会話は「ビデオゲームやってる?」といったシンプルなものでしたが、それだけ堂々とやり取りできるのは大したものです。これは浅草の仲見世通りを班ごとに観光していたときのことなのですが、その後何人かのアメリカ人の子と打ち解けすぎて班を外れていきそうになり、引率するリーダーに叱られていました。この機会を大いに満喫したようです。


 高校生のBちゃんもまた、実りある経験をしていたようです。合唱に一生懸命取り組んだ後、「アメリカの子とインスタのアカウントを交換するっていうミッションがあるの。でも引かれたりしないかなあ」と、ある男の子にドキドキしながら話しかけていたのでした。なんとかミッションは果たせたようで、その後も充実した交流が続いているのであればと願っています。


 そんな姿を見て、私自身も中学生の頃初めて訪れたアメリカで、ことばがほとんどわからないなかでも、さまざまな人と生身のやり取りをしたことが刺激となったことを思い出しました。仲良くなりたいと思った子となんとか連絡先を交換し(当時は、InstagramはおろかFacebookすら存在しません)、辞書を片手にメールや文通を重ねたという淡い恋の思い出もあります。


 外国語がツールとして必要不可欠になると、「授業でやっていないから知らない」「テストに出ないからいらない」ということではなく、少しでも自分のものにするのだという主体性が芽生えます。また、「遠いところに住んでいる関係ない人たち」と思っていた相手の心情を理解しようとするところから、自分が属さない文化圏に心から興味が湧き、視野も広がりました。さらに、違いが浮かび上がることで、それまで当たり前だと思っていた自分の言語・文化の価値や魅力にも目を向けるようになります。


 人の話やフィクションをおもしろがるのも良いですが、自分自身が当事者である実体験は何倍も強烈です。私自身の多感な時期のそういった経験は、今に至るまで財産になっています。


 ちょうど、国際交流に参加した小4Cちゃんのお母さまから「本格的に英語の教育がはじまる前に、相手に気持ちが通じる経験をしてほしいと思って参加しました」とアンケートをいただきました。音楽教育によく通じた方ですが、分野を問わずまず興味・関心を育むという意識をお持ちだということをうかがい知ることができ、さすがだと感じます。


 今年は、コロナ禍前に年中以上の全コース生で毎年取り組んでいた『クリスマスコンサート』*を、4年ぶりに開催いたします。子どもたちの合唱にフルオーケストラによる伴奏でお送りする、発表の機会です。その間の3年間は合唱の映像作品を制作することで新たな充実した発表の場を設けていましたが、やはり響きを肌で感じられる対面でのコンサートは特別です。改めて、一生の糧となる経験がお届けできるよう尽力いたします。ここでも編曲と指揮を務めますので、その際に色々な校舎やコース、年齢の皆さまとご一緒できることを心から楽しみにしております。

*参考:2019年度 クリスマスコンサートの様子


*コロナ禍において、子どもたちと一緒に制作した作品一覧はこちら



アノネ音楽教室 坂村 将介(さかむらまさゆき)- ”まさ先生”



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