私が花まるグループで子どもたちを指導し始めてから10年目となりました。今から10年前の2013年、学習塾 「花まる学習会」(以下、「花まる」と記載)に入社して、4月から教室長として現場に立ちました。
花まるには、音楽教育をやるために、まずは幼児教育を学びたいと思って飛び込みました。預からせていただいたのは、年中さんから小学6年生までの250人。教育に理想を掲げて入社しましたが、やはり百聞は一見に如かず。たくさんの子どもたちと関わり、保護者の方々と年間400回以上面談をさせていただきました。子どもたちに教える役割を担ったはずが、逆にたくさんのことを学ばせていただく3年間となりました。
花まるで教室長を務めつつ、音楽教室の設立へ向け、プレ開講として当時年少さんだったRくんのチェロのレッスンを受け持ちました。本開講までの2年間、たった一人の生徒であった彼とのレッスンのなかで、音楽教室の礎を築いていくことになりました。彼は現在中学2年生で、今でも私のレッスンに通っています。
さて、プレ開講を続けていくなかで、立ち上げメンバーで、チェロのほかにピアノやヴァイオリンのレッスンも行い、生徒は5人ほどになりました。そして、2015年に本開講。たくさんの問題意識を持って青写真を描き、スタートしました。本開講から9年目の今年は、おかげさまで過去最大である700名に到達しようとしています。
ただ、私自身のクラスの生徒はそれほど増やしていません。むしろ全体をじっくり見守るなかで、どのようにすれば子どもたちが精神面・技術面ともに伸びていくかということを大切に考えてきました。アノネ音楽教室の開講以前の期間を含めてもたった15年ほどではありますが、心も技術も育くんでいくためのポイントが浮かび上がってきたので、新入会の方がたくさんいらっしゃることをふまえつつ、お伝えしたいと思います。
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1. 先生と二人三脚で
私たち講師は、保護者の皆さまと二人三脚で、お子さまのことを育てたいと考えています。とは言っても、保護者の皆さまがますます忙しくなっているこの時代に、
「レッスンを必ず見学してください」
とはお伝えしておりません。その分、よく連絡を取り合って連携していければと考えております。
大手の音楽教室では、講師と保護者が直接連絡を取ることは原則禁止ということがほとんどだそうですが、アノネ音楽教室ではそれを推奨しています。子どもたちへのサポートのしやすさを重視してのことです。
例えば、家族旅行が理由で、お子さまが練習できなかった週があったとします。そんなときは事前にその旨をお伝えいただけると、まずは
「今週旅行に行ってきたって聞いたよ!楽しかった?」
と、明るい話題からレッスンをスタートすることができます。また、体調が悪ければ、まずはいたわりの言葉を投げかけることができます。
しかし、そういった事前情報がなければ、演奏のクオリティーだけで
「どれくらい練習してきたの?」
「なんで練習できなかったのかな」
といった会話からスタートしてしまうことになるかもしれません。
中には「先生は忙しいから」という気づかいから連絡を控えるようにしてくださる方もいますが、むしろたくさん頼っていただければと思います。お子さまの情報が増えれば、サポートの引き出しが増えるので私たちも助かります。そもそも私たちは子どもたちが好きで教育の世界にいるので、教え子の日常の様子を知ることができれば、我が子のことのように嬉しいものです。ぜひ私たち講師を遠慮なく使っていただきたいと思っております。
2. 興味・関心を広げる時間を持つ
練習とともに、興味や関心を広げる時間が大切です。もちろん技術を伸ばすことは重要ですが、残念ながら意欲がついてこないために脱落していく子が、お稽古ごと全般において本当に多いのです。
音楽のお稽古においては、小学6年生までに7割ほどが辞めてしまうという調査もあるほどです。仮に一人の先生が20人の小学生の生徒を受け持っても、小学校卒業までに6人ほどしか残らないという計算になります。先生としては相当心をくじかれることです。
一方で、先日私のチェロのクラスについて振り返ったところ、10年で2人しか退会した子がいませんでした。その2人の退会は、私の力不足のせいですが、一般的な継続率に比べれば、良い方といえそうです。しかし、それは代表である私のクラスだからというわけではなく、他の多くの講師も同じような継続率です。それは、トレーニング以上に、子どもたちの”わくわく”(興味・関心)を大切にしているからだと考えています。
アメリカのジャーナリスト、D.コイルも、彼の研究・調査から、スポーツや音楽のお稽古を10年以上継続して上達させるには、才能以上に興味・関心が広がっているかどうかが大事だと言っています。興味・関心を広げるというのは、”好きになるための時間”を普段から取っていると言い換えることもできます。それは、練習の時間とは全く違うものです。
例えばスポーツであれば、技術的な練習をさせるだけではなく、野球なら大谷翔平、サッカーならメッシのようなスーパースターの映像を見せて、憧れや刺激を得られる時間を取ることも有効かもしれません。音楽のレッスンでも同じで、技術を磨くことだけに時間をかけるのではなく、素晴らしい奏者の演奏を観たり聴いたりすることや、作曲者の人生や音楽の歴史について知る時間などを充分に取って興味・関心を広げることが、子どもたちの長期戦での努力を支えることになります。
昨今、子どもたちはたくさんの習い事に通っています。特に4〜5種類以上の習い事に取り組む子の傾向の一つとして、それぞれの習い事に関心が薄いということがあるように感じています。そして関心が薄ければ、ほとんどはいずれ辞めることになります。忙しいから辞めるというより、習い事がたくさんあるなかで関心が広がらないということの方が多いかもしれません。私も9種類ほどの習い事をやっていましたが、関心が持てないものから辞めていったことを覚えています。
アノネ音楽教室でいえば、集団音楽教室(ソルフェージュなどの基礎を楽しみながら学べる場)のレッスン、そして、コンサートや合宿といった経験が、興味・関心を広げる役割を担っています。長く続けて上達させ続けている子のほとんどがそういった場所に参加してきたことからも、胸を張っておすすめしたいと思っております。
3. 楽しめる工夫をして、集中力を培う
特に始めたての方々から、お子さまの集中力のなさについての相談をたくさんいただきます。このことの本質は、
「その子に集中力がある・ない」
ということではなく、
「その子にとって、取り組んでいることが集中できる対象になっているか・なっていないか」
ということです。子どもは誰しも何かに没頭することができるものですし、「集中していない」とする物事が、没頭できるものなのかどうかということこそが要点です。
また、ためしに「子ども」「集中力」「年齢」で検索してみると、集中力について「低学年くらいまでは年齢×1分」「中学生くらいでも15分程度が限界」というものが一番上に出てきました。
下の図のように、刺激が強いものには、簡単に没頭できるようになっています。なぜなら、自分から主体的(能動的)に取り組まなくても、その対象が楽しませてくれるからです。一方、刺激が弱く、能動的に取り組む必要があるものであれば、前述の検索結果のように「年齢×1分」ほどの集中のスパンが限度でしょう。小学1年生で1曲集中して演奏できたら万々歳です。それ以上に集中力を発揮させてあげたいのなら、「好き」「楽しい」という気持ちを培うアプローチを取りたいものです。前の項目でお伝えした「興味・関心を広げる」ということにもつながることですが、この点についてもやはり私たちが積極的にサポートいたします。
4. 近くにいる大人が楽しむ
伸びる子には、家庭環境にも共通点があります。それは、保護者の方が音楽についての喜びを、たくさん言葉にしているということです。
ジュニアオーケストラのお迎えの時間によく見られる光景なのですが、
「先生、今日子どもたちが弾いていた作品も、本当にいい曲ですね!」
と、保護者の方が心が動いた話をしてくださることがあります。こうしたご家庭の子たちは、そろって意欲が高いものです。
子ども自身がその体感を言語化できなくても、近くにいる大人が言葉にして、その情緒の輪郭だけでも伝えてあげたいものです。それが、
「こういうのがいいものなんだな」
「美しいってこういうことなんだ」
という気付きにつながり、やがて子どもたちの価値観を築き上げていくことになります。親が「おいしいね!」と言えば、それがちょっと苦くても「おいしいかもしれない!」と思えたことがありますが、そんなマジックとも似ているように思えます。音楽についての楽しみや喜び、心の動きを大人が言葉にすることが、子どもたちの価値観をポジティブなものとして築き上げていくうえで、一番大事と言っても良さそうです。
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最後に、5月には、私が子どもの頃に習っていた古希を迎えた師匠と、私の生徒たちと一緒に、福島で行われるコンサートに参加してきます。恩師と私を含める生徒たち、また私の生徒たちという3世代に渡って、ともに時間を過ごせる喜びも、音楽のつながりがもたらしてくれているものです。私にとっては父親も同然の恩師ですが、私自身も同じように70歳になっても音楽の輪が家族のように広がり続けるような教室にしていきたいと思います。
アノネ音楽教室代表 笹森壮大
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