執筆者紹介:勝野 菜生(かつの なお)
集団音楽教室の教室長、ピアノ・作曲の個人実技レッスン講師、教材開発、そして特別授業 芸術鑑賞会の企画運営など、幅広い範囲を担当。「なお先生」や「かっちゃん」の名で親しまれています。
学生時代よりサポート講師として活躍し、長年子どもたちと触れ合い続けてきました。子どもたちの変化やちょっとした様子を見逃さない観察眼を持ち、初めて会う子どもたちとも、あっという間に信頼関係を築いてしまいます。作曲家としての生来のクリエイティブさが至るところに発揮され、ちょっとしたデザインをおしゃれに仕上げるなど、隠れたスキルで人を驚かせることも。さまざまな顔を持つ先生です!
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「お守り」
私の実家には、私が6歳の頃に幼稚園の卒業記念で描いた絵が今も飾られています。その絵には、園庭でお友だちと一緒にドッジボールをしている様子が描かれています。
私は、かなりこだわってこの絵を描きました。
「ドッジボールだから、自分のチームと、相手のチームの両方を描きたいな。帽子の色も変えよう。園庭の遊具の順番は、右から雲梯(うんてい)、鉄棒、ジャングルジム、滑り台だな!よし、園庭の様子がそのまま描けたぞ!」
そんなふうに考えて手がけた自信作でした。
この絵について、園の先生はこうコメントしたそうです。
「なおちゃんは、すごく細かく絵を描きますね。同じドッジボールの様子でも、例えば“ボールを投げているところ”などを大きく書く子が多いです。でも、なおちゃんは、参加しているお友だちや、園庭にある遊具まで描いているのですよね」
先生がどのようなニュアンスで母に伝えたのか、正確にはわかりませんが(おそらくポジティブなニュアンスで伝えてくださったのではないでしょうか)、母はこのコメントをネガティブな意味で受け取ってしまったようです。帰宅後夕飯を作りながら、私に
「先生にこう言われちゃったのよ!(なんで細かく描いたの?大きく描きなさいよ!というニュアンスを込めて)」
と言うのでした。
母とのやりとりを詳細に覚えているのは、私にとって少なからずショックなことだったからでしょう。さらに、同じ幼稚園に通った2歳下の妹が、やはり卒業記念で絵を描いたのですが、なんとその絵は人物が大きく、ダイナミックに描かれていたのでした!私は
「お母さんに褒められる“大きな”絵だ!」
と思って、悔しい気持ちになったのでした。前述の出来事を経ても、絵を描くことを嫌いにはなりませんでしたが、家の壁に飾られた、私と妹の2枚の絵を見るたび、なんともいえない苦い気持ちが湧き上がったものでした。
「私がこだわった絵なのに…」
と。
しかし、今はこの絵に対して、前述とは違う気持ちを抱いています。
大人になってから、友人に前述の話をして、実際の絵を見てもらったことがあります。すると、友人は
「この歳で、全体を俯瞰して見ることができていたんだね。そのうえで、ここまで細かく描いていたなんて、結構すごいことじゃない?」
と言ったのでした。そんな捉え方もできるのか!と、初めて“あの絵”を誇らしく思うことができました。
「“俯瞰して見て、細かく詰めていくこと”は今でも好きかもしれない」
という気づきのきっかけにもなり、そのように言ってくれた友人には本当に感謝しています。
さて、少し前の話ですが、秋の発表会のことです。年長のAちゃんにとっては初めての発表会だったので、それだけでも大きな挑戦でしたが、彼女は強弱をつけて演奏することにまで挑戦をしました。Aちゃんは自分の音をよく聴いて、フォルテ(強く)とピアノ(弱く)の違いを出すべく、練習に励みました。
発表会の後、Aちゃんのお母さまは
「すごくいい音が鳴っていましたよね!特に、ピアノ(弱く)の音は優しくてとても素敵でした!」
とおっしゃっていました。そんな言葉を近くで聞いていたAちゃんは、発表会翌日も自らピアノに向かい、発表会で弾いた曲を演奏していたそうです。さらに、現在は、強弱をつけるだけでなく、例えば“(強弱の指示としての)ピアノのときは体をきゅっと縮める”など、身体全体で表現をするようにもなりました。Aちゃんのピアノ(弱く)の表現がより魅力的になったのは言うまでもありません。
もし、Aちゃんのお母さまが、前述のような言葉ではなく、ネガティブなことを伝えるものだったら、様子は変わっていたかもしれません。周りの人からもらった言葉は、意外と覚えていたりするもの。私自身は、普段から子どもたちと保護者の皆さまのやりとりを見ていて、
「その言葉、私もかけてもらいたかった!」
と思うような、素敵な言葉を送っていらっしゃる方が多く、いつも温かい気持ちになります。心に残るのなら、その人のお守りになるような言葉を送りたい。そんな言葉を送ることができる人になりたいと考えている今日この頃です。
アノネ音楽教室 勝野 菜生
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