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リレーコラム:2023年1月『異国の地での自信』伊藤 渚(いとう なぎさ)

執筆者紹介:伊藤 渚(いとう なぎさ)

子どもたちからの愛称は「なぎさ先生」で、音楽合宿や野外体験では「ラプソディ」や「ラプ」という名でもお馴染み。専門はピアノ。現在は、ピアノ科の主任や、二子玉川校の校舎長を務めています。

紹介者(坂村)とは学生時代からの仲で、ともにアノネ音楽教室を設立したメンバーでもあります。子どもたちやアノネ音楽教室への愛情にあふれ、まさに「ラプソディ(狂詩曲)」の名のとおり熱い仕事振りで突き進む、頼もしい女性です!

(紹介文:リレーコラム12月号執筆者 坂村将介)


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異国の地での自信

  私のクラスでは、「引っ越しちゃうけどピアノはまだ続けたい!」とオンラインで通う子どもたちがいます。その中の一人である中学1年生のRくんは、オーストリアはウィーンに引っ越して約1年が経ちます。


 Rくんは、小学2年生からピアノを始めました。お父さまのお仕事の都合で引っ越しが決まったのですが、「ここまで続けてきたピアノは、これからもどうにか続けさせてあげたい」とお母さまからご相談があり、オンラインで継続することとなりました。


 ウィーンといえば“音楽の都”。私自身一度観光で訪れましたし、同じドイツ語圏であるドイツに留学していたこともあり、とても親近感を持っている街です。私としてはRくんが羨ましい限りなのですが、本人にとっては初めての海外で不安しかなかったことと思います。Rくんがせっかくオンラインで自分の国の先生のもとピアノを続けるのだから、こちらとしては「ピアノの先生」としてだけでなく、精神面でサポートできることが何かあるのではないかと考えていました。


 そう考えていたとき、ふと自分自身の留学生活中につけていた「ハッピーノート」というものを思い出しました。以前のコラムでもお話ししたことがありますが、このハッピーノートは、毎日その日に“できたこと”を箇条書きで記していくものです。


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・銀行でお金がおろせた

・楽譜をコピーできた(ドイツでは、コピー代もレジで支払います)

・道端できれいなお花を見つけた

・スーパーでお肉を買えた

・野菜の買い方がわかった(お肉と同じく野菜もグラム売りなので自分で測らないといけません)

・銀行窓口のイケメンドイツ人と会話できた・・・!

Etc.…

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 一見、日本にいれば当たり前のことかもしれません。しかし、異国の地に赴けば、自分の当たり前は全く通用しないのです。そんな中、私は「自分はこの国では赤ちゃんのようなものだ」と思うようにしました。英語もドイツ語もままならないまま渡独した自分の責任ではありますが、そう思うことでなんだか開き直れたような気がしたのです。良い意味で、プライドが打ち砕かれたような感覚でした。そう思えるようになってから、私は自然にハッピーノートをつけるようになりました。そして、毎日このノートに1個でも書き足すことができたら、「今日も1日頑張った!おやすみ!」と自分を褒めるようにしていました。初めは、もし日本にいたら当たり前のことばかり並んでいたのですが、書かれる内容がどんどんと変化していって、嬉しくなったことを覚えております。


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・ドイツ人の友達ができた

・一人でプラハ(隣国チェコの首都)に行けた

・ドイツ人の友達と30分も話せた!何を言っているか理解できる!嬉しい!

・教授にたくさん質問して、話せるようになった!

Etc...

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私はこうして、自分の小さな幸せを見つけられるようになっていきました。


 そんなことを振り返り、当初Rくんのオンラインレッスンでは、「今週できたこと」を毎回聞いていました。


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・トラムに一人で乗った

・日本の友達とゲームで遊んだ

・オペラ座にコンサートを聴きに行った

Etc…

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 そして先日、渡欧して約1年が経つRくんの言葉から大きな成長を感じたことがありました。バッハの曲が合格になった際の一言です。

「今自分はヨーロッパに住んでいるから、ヨーロッパの作曲家の曲を弾けると自信になる。こっちにはストリートピアノもたくさんあるから、今度弾いてみようかなあ」


 私は、そんなRくんの言葉を聞き驚きました。なぜなら、Rくんが人一倍恥ずかしがり屋で、発表会の舞台袖でも緊張を露わにしていた姿が、私の頭に鮮明に残っていたからです。そんなRくんが、ストリートピアノを弾いてみようと思えるほど、自分に自信を持てるようになっている事実に、私は涙が出るほど喜びを感じました(ひょっとしたら、ついつい他人にどう思われるか気になってしまうということがなくなったのかもしれません)。


 異国の地にいれば、自分が外国人というだけで孤独感や疎外感を抱いてしまうことがあります。ヨーロッパから遠く離れた日本から来たRくんはそんな気持ちがあったに違いありません。しかし、それを打ち消すように、現地で生まれた作曲家の曲を弾けるということが、自信へとつながっているようでした。

「ピアノをやっていてよかったね」

Rくんとそんな会話をする日を迎えられたことを、なんとも感慨深く思う今日この頃です。

アノネ音楽教室 伊藤渚




アノネ音楽教室  伊藤 渚

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コラムに対するご感想などがございましたら、

info@anone-music.comまで、ぜひお寄せください♪


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