代表笹森コラム 9月号

最終更新: 2020年11月18日

 あっという間に夏が過ぎ、肌寒い季節になってきました。今年は特に、子どもたちが健康でいられるように対策を講じながら、我々講師陣も体調管理には一層気を張っていきたいと思います。またクリスマスコンサートを始め様々なイベントを見送る運びとなりました。心から残念に思いますが、関わる全ての人の安全には変えられません。その分、講師によるオンラインコンサートなどの企画も考えておりますので、どうぞご期待ください。


 先日、日本ラグビー協会のコーチングディレクターの中竹さんと対談を行いました。動画で観られた方もいらっしゃったかもしれませんが、私自身にとっても学びに溢れる時間となりました。中竹さんの著書の中で印象的だったのは、「オフザフィールドがチームを強くする」という言葉です。「オフザフィールド」とはボールを持たない時間をどう過ごすかという概念。ピッチの上では、ボールをもたない人の動きが実は重要であり、更にはピッチの外でも同じだというのです。ラグビーの強豪国であるニュージーランドでは、チームの仲間同士で食事をしたり、ボールを持たない時間をいかに過ごすかがチーム力の強化と深い相関があるといわれており、実際にこの「オフザフィールド」を研究するリサーチャーがいるそうです。


 さて、話は変わります。私は月1回のオーケストラコースを担当しているのですが、先日久しぶりにリアルで人が集まりました。そこに先日新しく入会したH君の姿もありました。彼は現在4年生で、私が集団のベーシックコースを二子玉川で教えていた時、2年生だった生徒です。明るく前向きなH君は当時から教室を活気づけてくれていました。H君は、音楽教室の『おぺら』(伝記教材)の時間が大好きで、授業中の口癖は「早く生演奏聴きたい!」でした。『ぽるか』や『きりえ』なども生演奏ですが、彼にとっては『おぺら』の時間が待ち遠しくて、終わってしまうと「もっと生演奏を聴きたい!!」というのがお約束でした。そんな様子を見て、毎授業、講師の人たちと微笑ましい時間が流れたことを覚えています。そんなH君は『おぺら』で聴いたパガニーニの曲に憧れ、1年半前からヴァイオリンを始めました。そしてやっとオーケストラの入団レベルに達し、再会を果たしたのでした。

H君の成長のスピードは目覚ましいものがあります。H君の演奏歴以上のレベルの楽曲をオーケストラでは扱っていますが、私の期待以上に練習もしてくれています。教本の進み具合も速く、自らどんどん曲を読むそうですが、意欲に技術が引っ張りあげられているような躍進ぶりです。オーケストラの休憩が終わったあと、誰よりも早く基礎練習をしています。それも凄い集中力で、指板から目を離さず弾いています。私もそうでしたが、オーケストラは1日の練習が7時間と長いですから、休める時は少しでも長く休みたいものです。それなのにH君は隙間時間にはとにかく早く着席して黙々と取り組んでいました。私の好きな鈴木鎮一先生のコラムの中に「勤勉な子を育てる」という挿話があります。その一節で「集中する心が楽しい習慣に育てられた時、初めて勤勉の心が育つのである」とおっしゃっています。楽しい習慣とはやらされ感ではないという、文脈で書かれていたのですが、まさにH君がそうでしょう。

 ここまで書くと、ベーシックの集団の音楽教室やレッスンでの指導が、正しく学習観が身に付いた要因かのように思いますが、それだけではありません。実はそういった音楽に対する気持ちはお母さまの影響が大きいと感じています。初めてオーケストラの夏のイベントに参加された時、「天国にいるような美しい響きで…このような場所に連れてきていただいたことに感謝です」とおっしゃっていました。アンサンブルをする喜びをお母さま自身が体の芯から感じていらっしゃると、いつも丁寧にお伝えいただいています。思い返せばH君が音楽教室に入会した時も、授業の中で感動した気持ちをたくさん伝えてくださりました。そういったお母さまが音楽を楽しみ感動している姿が、H君の音楽に対する視座の礎となっているのだと確信しています。

 話は戻りますが、対談の中で中竹さんがおっしゃっていたことの一つに、「良い指導者は、指導者自身が成長していくもの」という言葉がありました。これは、高濱さんも1年ぐらい前におっしゃっていたことで印象に残っています。親御さんから見れば、当然成長し続ける指導者の方が良いにきまっていますが、指導者の成長と、子どもの成長がどのように関係するのか。テクニカルな部分ではなく、コーチ自身の「姿勢や態度」が必須の条件であるという見解は示唆に富みます。指導者が常に新しい教育の知見を得ていくことが大切なのか、あるいは指導者が学んでいる姿勢そのものが子どもを伸ばすのか。後者で言えば、本を読みなさいというより、読んでいる姿を見せる方が良いという議論にも似ているかもしれません。実はこの話、私はピンとこなくて高濱さんに質問をしました。高濱さん曰く幼児教育の第一人者である上里先生の言葉だったそうで、「その言葉を聞いたときはピンとこなかったが今はよくわかる」ということでした。それでも私はまだピンときていなかったのですが、ふとあることに気が付きました。それは、御茶ノ水の高濱さんの社長室の前を通ると、毎週10冊以上の新しい本が並んでいるということです。高濱さんには親切にも「勝手に読んでいいよ」と言ってくださるので、よく拝借しています。高濱さんのように教育界の第一線で活躍されていながら、多忙であるにも関わらず、学び続ける姿勢にやはり触発されないわけがありません。しかも本には付箋と鉛筆での線引きだけに留まらず、コメントの書き込みまであります。そう思うと確かに、「この本、読みな」と言われるより、語らずとも勉学への姿勢や向上心を背中で見せていただけていることに、よほど効果があるなと得心がいきます。とは言っても、私自身まだこの言葉の真意を理解しきれていません。ただし、成長する側は、成長を与える側の投げかける言葉以上に、背中を見ているということだけは言えると思います。このように書くのも自戒の意味も込めてですが、言葉ではなく行動で示せる大人でありたいと思います。

アノネ音楽教室代表 笹森壮大

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